食料
新たな食料システムの構築を目指す生産性・持続性・頑強性向上技術の開発
世界の食料システムは人口増加や気候変動等の影響による問題を抱えています。新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)は、この食料システムの脆弱性を明らかにし、状況を悪化させました。パンデミックに限らず、現在起きている、あるいは将来発生する可能性のあるさまざまな問題に対処するため、食料システムのレジリエンスを強めることが不可欠です。
開発途上地域における食料システムのレジリエンスを強めるためには、多様化している食料システムに関わるニーズに対処する必要があります。「社会的ニーズ」として、量的・質的な栄養改善、食を通じた健康の実現があります。「経済的ニーズ」として、労力削減・生産性向上、地域資源の最大活用、あるいは気候変動などのリスクに強い農業があります。さらに「生物圏ニーズ」として、化学肥料・農薬の低減、生物多様性の保全・再生があります。そして、これらのニーズの解決には、ICT、IoT、バイオ等、先端技術の活用が期待されています。
このプログラムでは、このような多様な食料システムに関わるニーズに対応し、技術開発と活用を通じて、対象地域における安定的な食料生産、国際的な食料需給、食料栄養安全保障に貢献するため、「食料生産性の向上と栄養改善を達成する新たな食料システム」の構築を図ります。そのために、「作物・食品加工技術開発」、「環境調和型生産基盤の維持強化」、「アフリカ食料・栄養安全保障」に分類できる6つの「生産性・持続性・頑強性の向上にむけた技術開発プロジェクト」を推進します。
これら全てのプロジェクトは、おもに「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標2「飢餓をゼロに」に貢献します。

研究成果情報
関連するJIRCASの動き
タイにおいて発酵型米麺の液状化抑制技術を紹介するワークショップが開催されました
9月19日、タイにおいて、発酵型米麺(カノムチーン)の液状化抑制技術を紹介するワークショップが開催されました。この技術は国際農研とタイのカセサート大学食品研究所が共同で開発し、農林水産省の「みどりの食料システム基盤農業技術のアジアモンスーン地域応用促進事業」において国際農研が公表した技術カタログにも掲載されています。国際農研からは丸井淳一朗主任研究員が協力者として参加しました。
プレスリリース
関連するイベント・シンポジウム
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ハイブリッド(ビジョンセンター日比谷会議室301号・およびオンラインWebex配信)(100-0006 東京都千代田区有楽町1-5-1 日比谷マリンビル 3階)

「アフリカ農学と土壌肥沃度・貧栄養土壌管理の課題」
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オンライン(Zoom)

現地の動き
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Pick Up
849.イネの根のかたちの改良によりリン吸収が上昇する
2023-09-01 植物の三大栄養素のひとつであるリンは生育や収量と密接に関わることから、植物への十分な供給が必要です。しかし、世界の多くの農地はリンの供給に乏しいほか、アフリカなどの開発途上地域においては経済的な面から十分な肥料を購入することが難しいため、作物は慢性的なリン欠乏に陥っています。国際農研は根のかたちの対照的な2品種のイネを用いた遺伝学的解析から、イネの側根の発達および冠根数を制御する遺伝子座を発見するとともに、それらがリン欠乏圃場において植物体のリン吸収の上昇に効果を発揮することを示しました。この研究成果は将来的に、リン欠乏の蔓延する開発途上地域におけるイネの収量改善や、イネのリン利用効率の向上に伴う施肥量の削減などにつながることが期待されます。 -
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845. サバクトビバッタが脱皮中の共食いを避ける行動を解明 -農薬使用量の削減に繋がる防除方法確立のために
2023-08-28 サバクトビバッタは、アフリカからアジアにおいて深刻な農業被害をもたらす重要な害虫です。野外における生態に不明な点が多いため、大発生し問題が顕在化した後に環境負荷が大きい非効率な防除を行わざるを得ない状況になっています。そこで国際農研では、バッタの被害の軽減を図るため、その生態に基づいた効率的な防除技術の開発を進めています。今回は、上記の研究のうち、農薬使用量の削減に繋がる防除方法を確立するために必要不可欠なバッタの幼虫の集団行動、特に脱皮中の共食いを避ける行動に関する国際農研の研究成果について紹介します。 -
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844. セミナー『雑穀 - 栄養・農業・気候の課題に対応する潜在能力』
2023-08-25 2023年国際雑穀年を機に、国際農研は雑穀に関するセミナーを企画、9月26日に東京の会場とオンラインのハイブリッドの形式で開催いたします。本セミナーでは海外および日本で雑穀研究に携わる科学者が、世界的な気候変動や栄養問題に対する雑穀研究の可能性について議論する場を提供し、雑穀の気候耐性と栄養面での利点に対する認識を高めます。ぜひご参加をご検討ください。 -
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843. 飼料木のサイレージ発酵を促進する調製法とメカニズムを解明
2023-08-24 国際農研は、世界的には飼料木としても利用されるクワ枝葉を用いたサイレージの調製を行い、その発酵品質を向上させるために添加した乳酸菌製剤、セルラーゼ、及びそれらの相乗効果を示しました。また最新のDNAシーケンス技術を用いて、サイレージ発酵における細菌叢のダイナミックな変動と細菌種相互の相関関係を明らかにしました。乳酸菌製剤とセルラーゼは、嫌気性発酵においてグラム陰性菌からグラム陽性菌への優占菌の変化を促進し、乳酸菌を中心とした細菌の微生物ネットワークを形成しました。これらの成果・知見は、今後、半乾燥地で乾季に不足する家畜栄養の改善、家畜生産性や農家所得の向上のため、現地で利用できる飼料木を用いたサイレージ調製法として応用することが期待されます。 -
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841. 食卓のアレを使って土壌分析!?
2023-08-22 土壌にはリン酸と結合する性質(リン吸着能)があります。畑の土壌のリン吸着能が強いと、せっかく撒いたリン肥料が、作物に吸収される前に土壌と結合してしまうため、施肥効率が悪くなります。そのため、リン吸着能は施肥基準としても利用されます。最近の研究によって、リン吸着能が土壌水分含量と密接に関係していることがわかりました。国際農研とマダガスカル アンタナナリボ大学の研究チームは、この関係を利用して、食塩(塩化ナトリウム)を使ったある工夫を加えることで、土壌水分含量からリン吸着能を精度よく、しかも簡単に推定する手法を開発しました。