水稲の密植栽培はサブサハラアフリカ低収量水田における増収・増益に有効

関連プロジェクト
アフリカ稲作システム
要約

サブサハラアフリカに多くみられる低収量水田(1.8~4.6 t ha-1の収量範囲)では、栽植密度を25~26.7株m−2から50~53.3株m–2に増やすことで、栄養成長期の群落受光量が改善され、安定して0.4 t ha–1の増収が得られる。その増収益は、マダガスカルの稲作農家の場合、密植にともなう種子費と移植労働費の増加に比べて、3倍以上大きい。

背景・ねらい

 サブサハラアフリカのイネ収量は、ヘクタール当たり2.1トン(以下、t ha-1と表記)で、その他の地域の平均収量5.0 t ha-1に比べて、著しく低い(FAOSTAT, 2024)。同地域の小規模農家の多くは、経済的な要因によって、収量改善に必要な灌漑施設、化学肥料、優良種子などへのアクセスが制限される。一方で、栽植密度の最適化は、小規模農家でも自ら実践できる技術の一つである。栽植密度の効果は、5.0 t ha–1以上の比較的高い収量水準をもつ灌漑水田で多く検証されてきた。しかし、サブサハラアフリカにみられる、5.0 t ha-1未満の低収量水田において、栽植密度の違いが水稲収量に及ぼす効果を実験的に整理した研究例はなく、その効果を明らかにすることで、小規模農家の収量改善策として実用的なインパクトが期待できる。
 そこで本研究では、低収量水田が分布するマダガスカルにおいて、地域、圃場、施肥量、移植時期を変えることで、生産性の異なる計38点の栽培環境を設け、水稲栽培の標準的な栽植密度である25~26.7株m−2(標準区)と、その倍の50~53.3株m−2(密植区)の2つの処理が収量に及ぼす効果を明らかにする。また、同地域の60村落356農家を対象とした家計調査をもとに、種子や労働に関わる費用と増収による収益を算出し、栽植密度の最適化による経済的な便益を推定する。

成果の内容・特徴

  1. 平均収量(標準区と密植区の平均値)が1.8~4.6 t ha-1の範囲において、密植区の収量は、栽培環境にかかわらず、標準区に比べて安定して0.4 t ha-1高い(図1)。
  2. 平均収量が5.5 t ha-1の高収量条件、もしくは、1.3 t ha-1未満の極低収量条件では、密植による増収効果はみられない(図1)。
  3. 平均収量が1.8~4.6 t ha-1の条件では、密植により、栄養成長期の群落の積算受光量が増加し、その効果は登熟まで維持される。平均収量が5.5 t ha-1の高収量条件では、栄養成長期にみられる積算受光量の改善効果は、登熟まで維持されない(図2)。
  4. 移植から登熟までの積算受光量は収量と高い相関をもつ(図3)。
  5. 対象地域の栽植密度、種子費、および移植労働費の平均値は45.2株 m-2、106,000MGA* ha-1および120,000MGA ha-1である。これらの値を基に、栽植密度を標準から2倍の密植にすることで増加するコストは、種子費58,000~62,000MGA ha-1、移植労働費66,000~71,000MGA ha-1、計125,000~133,000MGA ha-1と推定される(表1)。密植による増収効果0.4 t ha-1から得られる追加収益は441,000MGA ha-1(家計調査で得られた稲籾の平均軒先価格から推定)であり、コストの増加分に比べて3倍以上大きい。

*MGA:マダガスカルの通貨単位で1MGA=0.033923円(2025年1月の為替レート)

成果の活用面・留意点

  1. 水稲収量が1.8~4.6 t ha-1程度にある小規模農家の収量および所得の改善策として期待できる。
  2. 本成果は、初期生育が緩慢なマダガスカル中央高地の冷涼地域において、同地域の主力品種X265を用いた試験結果に基づく。同様の収量水準(1.8~4.6 t ha-1)にあっても、温暖地域やその他の品種への適応には追加検証が望ましい。

具体的データ

分類

技術

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ稲作システム

受託 » JST/JICA SATREPS » 肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上

研究期間

2017~2024年度

研究担当者

辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 20588511

尾崎 諒介 ( 社会科学領域 )

科研費研究者番号: 80965244

Andrianary Bruce Haja ( アンタナナリボ大学 )

Rakotonindrina Hobimiarantsoa ( アンタナナリボ大学 )

Ramifehiarivo Nandrianina ( アンタナナリボ大学 )

ほか
発表論文等

Andrianary et al. (2024) Field Crops Research 318: 109601.
https://doi.org/10.1016/j.fcr.2024.109601

日本語PDF

2024_B05_ja.pdf568.39 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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