マダガスカルにおける水稲収量の増加は農家の栄養改善に有効である
マダガスカルの農村地域において、水稲収量が増えると、農家はコメの自家消費量だけではなくコメを販売した現金収入による栄養価の高い食品(野菜、果物、肉・魚)の購入量も増加させる。これらの消費および市場での購買行動の多様化により、主要穀物の生産性向上が、エネルギー摂取量だけでなくビタミンA、亜鉛、鉄分などの微量栄養素の摂取量の増加、すなわち栄養の量と質の両面において栄養改善に貢献することが示唆される。
背景・ねらい
サブサハラアフリカは世界で最も飢餓人口割合が高く、微量栄養素不足も深刻な地域である。その背景には、作物の生産性が極めて低いことが挙げられている。主要穀物の生産性向上は農家のエネルギー摂取量や現金収入の増加をもたらすことが期待される一方、主要穀物を生産し消費するだけではビタミンAなどの微量栄養素を十分に供給できないため、主要穀物の生産性向上がどのように農家の栄養改善につながるのかを定量的に示すことが求められている。そこで、サブサハラアフリカでコメの生産量および消費量が大きいマダガスカルの農村地域を対象に、2018~2020年までの3年間、600家計の生産・消費などをモニタリングし、得られたデータを計量経済学の手法を用いて分析することで、水稲の収量が微量栄養素も含めた栄養供給に与える経路や影響の強弱を検証する。
成果の内容・特徴
- 水稲収量に対するエネルギー、亜鉛、鉄分、ビタミンAの弾力性は有意に正の値をもつ。すなわち、水稲収量が増えることで、対象地域で不足するこれらの栄養素の供給量が増加する(図1)。例えば、水稲収量がヘクタール当たり約1トン増加した場合、平均世帯で一人当たりのエネルギー摂取量が212.4 kcal(水稲収量が1%増加した場合0.33 %増加、すなわち弾力性:0.33、以下同じ)、亜鉛摂取量が0.7 mg(弾力性:0.23)、鉄分摂取量が3.1 mg(弾力性:0.70)、ビタミンA摂取量が21.3 μg RAE(弾力性:0.30)増加すると推定される。
- 水稲収量が増えることで、コメ消費量(弾力性:0.20)だけではなく、コメを販売することで得られる現金収入(弾力性:0.41)も増える(表1)。
- 現金収入が増えることで、市場での野菜、果物、肉・魚の購入量が増加する(図2)。
- コメを販売するかどうか(Yes/No)に対して、収量は有意に正の影響がある(表2)。一方、収量と、住居から主要道路までの距離を掛け合わせた変数(交差項)は、有意に負の影響がある(表2)。市場アクセス(主要道路までの距離と関連)の良さがコメの販売を促進しており、市場が果たす役割の重要性が示唆される。
- 以上より、水稲の生産性向上が自家消費量を増加させる(図3赤線)ことに加え、市場経路(図3青線)を通じて栄養価の高い食品を購入することがわかる。よって、水稲の生産性向上は量(エネルギー供給量)と質(微量栄養素を含む栄養バランス)の両面で農家の栄養改善に有効である。
成果の活用面・留意点
- これらの成果はサブサハラアフリカの農村地域で栽培される主食作物の生産性向上を介した栄養改善策の立案や活動の科学的論拠としての活用が期待される。
- サブサハラアフリカの農村地域においての主要作物の生産性向上を目的とした技術的な介入は、貧困農家の栄養改善、ひいてはSDGsの目標2「飢餓をゼロに」に貢献することが期待される。
- 消費だけでなく市場を通じた購買行動の多様化が生じたことによる結果であり、技術導入とあわせて農家の市場アクセスを確保する必要がある。
具体的データ
- 分類
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行政
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
受託 » JST/JICA SATREPS
- 研究期間
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2017~2022年度
- 研究担当者
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白鳥 佐紀子 ( 情報広報室 )
ORCID ID0000-0003-3285-3633科研費研究者番号: 60746486尾崎 諒介 ( 社会科学領域 )
ORCID ID0000-0001-7152-8337科研費研究者番号: 80965244Nikiema Relwendé Apollinaire ( 東京大学 )
ORCID ID0000-0003-2625-4474櫻井 武司 ( 東京大学 )
Rafalimanantsoa Jules ( マダガスカル国立栄養局 )
- ほか
- 発表論文等
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Nikiema et al. (2023) Food Security 15: 823–838.https://doi.org/10.1007/s12571-022-01333-5
- 日本語PDF
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2022_B09_ja.pdf1.15 MB
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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。