研究成果情報

研究成果情報を検索

国際農林水産業研究センターにおける研究成果のうち、成果が特に顕著で、広く利用を図ることが望ましいと考えられる成果を要約してご紹介しています。
年度ごとの国際農林水産業研究成果情報はこちら

  • メタ解析で解き明かされたイネの再生特性と再生イネの穂数依存型の収量構成(2023)親イネ(一期作)に比べて、再生イネ(再生二期作)の穂数は19%増加する一方、生育期間は41%短縮し、一穂籾数や籾収量はそれぞれ48%、56%減少する。また、生育期間の短縮は、草丈、穂長、籾収量の減少に影響を与える。すなわち、再生イネの株出し栽培は、出穂を早め、幼穂分化を制限し一穂籾数を半減させ、収量を穂数に依存する収量構成へと転換させることを示唆している。
  • 微生物糖化法を高効率化させる新規のキシラン糖化菌(2023)リグノセルロースのバイオマス利用においてセルロース・キシランの安価で効率的な糖化法は重要な技術である。石垣島の堆肥から新たに見出した新属新種の好熱嫌気性細菌Insulambacter thermoxylanivoraxは高効率にキシランを分解する。微生物糖化法で用いるセルロース糖化能の高いClostridium thermocellumと本菌を共培養すると、キシランを多く含むバイオマスの糖化を向上させる。
  • 降雨による滞水はオイルパームの幹上部での遺伝子発現を変動させる(2023)

    約2年間にわたって時系列に得たオイルパーム成木の幹及び葉の遺伝子発現動態を解析したところ、短期的な大量の降雨時に、幹においてのみ遺伝子発現動態に大きな変動が生じる。この大きな変動は低酸素応答やエチレン応答に関する遺伝子群であり、これらの遺伝子群は滞水によって生じる典型的なストレス応答である。滞水していない幹上部で発現していることから、オイルパームは滞水に脆弱であることが示唆される。

  • トウモロコシの生物的硝化抑制(BNI)の鍵となる物質を同定(2023)

    BNI活性を有するトウモロコシ根分泌物の親水性画分から見出されるMBOAは硝化菌の増殖を抑制し、土壌由来の硝酸発生量を減少させる。トウモロコシ根が産生するベンゾキサジノイド類は土壌中で最終的にMBOAに変換されることから、MBOAはトウモロコシの強力なBNI活性物質である。

  • 実生のゲノム情報からフタバガキの幹直径と樹高を予測するモデルの開発(2023)東南アジア熱帯雨林の主要構成樹種であるフタバガキ科の成長には多数の遺伝子が複雑に関与している。既存の次代検定林をゲノム予測モデル開発のためのトレーニング集団とし、ゲノムワイド連関解析と線型・非線形のモデル開発用アルゴリズムを組み合わせたワークフローを適用することにより、実生のゲノム情報から幹の直径成長と樹高成長における複雑な遺伝様式を説明する最良のゲノム選抜モデルが得られる。
  • 熱帯林樹木テンバガサラノキとセラヤサラノキの種間雑種の干ばつへの強靭性(2023)東南アジアの重要な木材資源であるフタバガキ科のテンバガサラノキは成長が早く植林に適しているが、乾燥耐性が低い。一方、近縁種のセラヤサラノキは成長が遅く収穫まで時間がかかるが、乾燥した立地でも生育する。両者の種間雑種は、葉の厚さや光合成能力、乾燥ストレス耐性等がテンバガサラノキとセラヤサラノキの中間の特性を有しており、干ばつなどの気候変動に対してより強靭な品種作出に利用できる。
  • 炭化物の施用深度の違いは窒素溶脱量と水収支を左右する(2023)炭化物の施用量が同量であっても施用深度が異なると、硝酸態窒素溶脱量と水収支に差が生じる。表層および作土層全体の土壌に炭化物を施用すると、硝酸態窒素溶脱量が減少する傾向が認められる。一方、下層に施用する場合、硝酸態窒素溶脱の軽減効果は認められない。炭化物を適切な深度に施用することで、環境負荷の軽減が期待できる。
  • 陸域から沿岸域へ流入する溶存有機物および鉄の変動要因を機械学習で解明(2023)熱帯島嶼の河川を対象に定期的に水質調査を行い、その結果について機械学習手法を用いて解析すると、河川水中の溶存有機物量は季節変動を示すとともに、流域の土地利用や土壌特性の影響を強く受けること、特に低湿地土壌から供給される腐植物質様成分の寄与が大きいことが分かる。また、腐植物質様成分の量が多いほど、植物プランクトンや海藻類等の必須栄養素である鉄の濃度が増加することが分かる。
  • 窒素フットプリントを活用した窒素負荷・化学肥料の削減効果と資源循環の見える化(2023)環境中に排出される反応性窒素を定量化する指標である食の窒素フットプリントを活用し、窒素負荷の実態とその改善策を見える化する。亜熱帯に位置し農畜産業が盛んな沖縄県石垣島の場合、島内で産出される牛糞堆肥の70%を農地に還元することで、化学肥料使用量と島内の窒素負荷をそれぞれ30%および18%削減することができる。
  • 脂質含量を減らさずにタンパク質含量を高める野生ダイズ由来対立遺伝子(2023)野生ダイズ染色体断片置換系統群を利用して検出した、第19番染色体に座乗するタンパク質と脂質含量に関連する量的形質遺伝子座qPro19の野生ダイズ対立遺伝子は、種子の脂質含量を減らさず、タンパク質含量を高める。本研究で同定した野生ダイズの対立遺伝子を用いて、タンパク質と脂質両方が向上した品種の開発が期待される。
  • 畝を用いた圃場における作物干ばつストレス実験系の開発(2023)高さ30 cmの畝を用いることにより、圃場において安定して干ばつストレスを誘導することができる。畝を利用した干ばつストレス実験系は、圃場での干ばつ研究や耐性品種の選抜を、圃場での干ばつ研究や耐性品種の選抜を、安定的に安価かつ簡便に実施することを可能にする。
  • 植物の新たな干ばつストレス応答メカニズムの解明(2023)葉の萎れが見られない程度の極めて初期の干ばつ時に、植物体内のリン酸含量が低下し、リン酸欠乏応答遺伝子の発現が誘導される。リン酸欠乏応答は、これまでにわかっていたアブシシン酸の応答が起こる前の乾燥ストレス初期に生じることから、干ばつ初期の植物の応答を捉える新たな指標として、植物の水分センサー開発などに応用できる。
  • 植物の硝酸イオン吸収を数理モデルにより予測(2023)植物の主要な窒素源である硝酸イオンの利用に関わるNRT2遺伝子の制御システムの数理モデル化により、異なる条件における植物の硝酸イオン吸収を予測できる。数理モデルを用いたシミュレーションにより、転写抑制因子であるNIGT1が窒素栄養環境の変化に対するNRT2遺伝子の発現の安定化に寄与することが理論的かつ実験的に示される。この結果は、特定の植物形質のデザインとスマート育種における数理モデルの有用性を示唆する。
  • 適切なリンの肥培管理により黒米の生産性と品質を両立できる(2023)リンの供給力が低い熱帯地域の土壌では、リン施肥によって黒米の収量が向上するが、過剰なリン施肥は抗酸化力を持つフラボノイド類量を減少させ、玄米表面色の黒色を薄くする。適切なリンの肥培管理により、付加価値の高い黒米の安定生産が可能になる。
  • ツマジロクサヨトウの殺虫剤感受性を国際間で比較するための簡易検定法(2023)検定に供試する個体の採集法、入手が容易な材料で作成する人工飼料による供試虫の累代飼育法、人工飼料を用いる殺虫剤塗布法から構成される簡易検定法を用いることで、越境性害虫であるツマジロクサヨトウの殺虫剤感受性を容易に国際間で比較できる。
  • 穂数を増加させる量的遺伝子座MP3は高CO2環境でイネを増収させる(2023)温帯ジャポニカ品種コシヒカリ由来の量的遺伝子座MP3は、インディカ品種の分げつ数・穂数を20~30%増加させ、高CO2環境で6%増収させる。MP3のインディカ品種への利用により、大気中CO2濃度の上昇が続く気候変動下での国内外の持続的な稲作への貢献が期待される。
  • ゲノム編集でOsTB1遺伝子の機能を弱めたイネはリン欠乏条件での収量性が高い(2023)イネの分げつ伸張抑制遺伝子TEOSINTE BRANCHED1 (OsTB1) の機能をゲノム編集により弱めることで、背景品種X265に比べて、分げつ数が2割増加した変異体が作出される。同変異体は、リン欠乏条件での籾収量が背景品種に比べて4割多い。OsTB1遺伝子の機能を調整することで、分げつが抑制されるリン欠乏環境でのイネの生産性向上が期待される。
  • 主要普及成果 含水比に基づくリン施肥診断に有効な水田土壌のリン吸着能の簡易推定法(2023)リン肥料の施肥効率にかかわる水田土壌のリン吸着能は、密閉容器内で飽和食塩水(飽和塩化ナトリウム水溶液)とともに1週間静置した土壌の含水比によって高い精度と再現性で推定できる。危険な試薬や高価な機器を要する化学分析を必要としないため、分析環境が十分に整わないサブサハラアフリカなどにおいても、リン肥料を優先的に施用する圃場を選別するために利用できる。
  • 水稲へのリン浸漬処理P-dippingは冠水害の回避にも有効(2023)リン欠乏水田で高い施肥効果を発揮するリン浸漬処理P-dippingは、水稲の生育日数を短縮して低温ストレスリスクを軽減するだけではなく、初期生育を改善するため、突発的な水位上昇にともなう冠水害の回避にも有効である。さらに、P-dippingと組み合わせることで、窒素施肥の効果が大きくなることから、P-dippingは様々な圃場環境や窒素施肥に効果的な技術である。
  • 水稲へのリン浸漬処理P-dippingは4.5~6.5葉程度の苗を用いると増収効果が高い(2023)水稲の移植時に、リン肥料を混ぜた泥を苗の根に付着させるリン浸漬処理P-dippingでは、葉齢が4.5~6.5葉程度の苗を用いることで、最も高い増収効果が得られる。葉齢が4.5程度より小さい場合には苗の根に付着するリン量が少なく、6.5程度より大きい場合には肥料焼けにともなう苗の植え傷みが生じることで、P-dippingによる増収効果が低くなる。