BNI強化ソルガムの導入によりインドの施肥量削減への貢献が期待される

関連プロジェクト
BNIシステム
国名
インド
要約

生物的硝化抑制(BNI)強化作物は少ない窒素肥料で高い生産性を可能にする。開発中の土壌の硝化抑制率30%のBNI強化ソルガムがインドの農家へ導入された場合、窒素施肥量はラビ(乾期)作とカリフ(雨期)作ではそれぞれ8.0%と7.4%削減と試算される。この条件では、面積当たりと収量当たりライフサイクル温室効果ガス(LC-GHG)排出量をラビ作で15.6%とカリフ作で11.2%削減可能と推定される。また、農家利益を微増させ、ラビ作では肥料補助金支出9.1%削減が期待される。

背景・ねらい

 インド政府は国民の安定的な食料生産を確保するために、尿素(窒素含量46%)に多額の補助金を提供している。これにより、農家は大量の尿素を使用し、生産量は増加する。しかし、この結果として水質汚染と一酸化二窒素(N2O)排出量が深刻化し、さらに窒素以外の肥料成分の投入が少ないため、収量に影響を与えている。加えて、エネルギー価格の上昇と穀物の需要増加により肥料価格が高騰し、政府の補助金支出が増加して財政を圧迫している。
 本研究は、インド最大のソルガム生産地であるマハラシュトラ州を対象とし、土壌の硝化抑制率30%を目標として開発されているBNI強化ソルガムの導入によるメリットを評価する。そのため、収量を低減させずに窒素施肥量を低減される場合と収量を増加させ窒素施肥量を維持する場合のライフサイクル温室効果ガス(LC-GHG)排出量、農家の利益、窒素施肥量および現行制度によりインド政府から支出される肥料補助金を算定する。

成果の内容・特徴

  1. ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)手法を用い、農業資材および機械の製造から整地・栽培・収穫までの各段階で発生するGHGの総排出量をLC-GHGとして評価する。農家の利益は、各生産管理で発生する農業資材、農機具、燃料、賃金などを含む生産費と売上に関するデータを用いる(図1)。
  2. 2020~2021年のラビ作(栽培時期:11月~4月)に250戸と2022年のカリフ作(栽培時期:6月~10月)に209戸のソルガム栽培農家を対象に調査を実施し、分析の基礎データとする。
  3. BNI強化ソルガムの導入により、収量を低減させずに窒素施肥量を低減した場合、一般に普及しているソルガムを導入したソルガム畑(硝化抑制率0%)と比較して、窒素施肥量、LC-GHG排出量および政府からの肥料補助金支出が顕著に減少し、農家利益は微増することが期待される(図2、左)。
  4. 一方で、農家調査では、少ない窒素施用量でも収量が変わらないBNI強化ソルガムを生産したとしても、補助金支出のある窒素肥料の施肥量を削減しないとの回答が多く、そのため窒素施肥量を変えないシナリオでのメリットについても算定を行う。
  5. その結果、施肥量を削減しない場合でも、一般に普及しているソルガムを導入したソルガム畑(硝化抑制率0%)と比較して、ラビ作では面積・収量当たりLC-GHG排出量はそれぞれ11.3%と13.5%削減し、カリフ作ではそれぞれ8.1%と10.2%削減すると算定される。一方で、収量はラビ作とカリフ作ではそれぞれ2.5%と2.4%、農家の利益は4.9%と6.5%増加すると試算される。しかし、政府の肥料補助金支出は減少しない(図2、右)。

成果の活用面・留意点

  1. 窒素施肥量が多い地域では使用量を削減し、窒素施肥量が少ない地域では使用量を変えずに導入することで、持続可能な農業システムの構築に貢献することが期待される。
  2. 本研究は、肥料補助金が多いインドの一つの州の農家調査に基づいて得られた結果であり、肥料補助金が少ない国や地域では結果が異なる可能性がある。各国で様々なシナリオに基づいた事前評価を実施する必要がある。

具体的データ

分類

行政

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » BNIシステム

研究期間

2021~2024年度

研究担当者

レオン ( 社会科学領域 )

科研費研究者番号: 70751387

Nedumaran Swamikannu ( 国際半乾燥熱帯作物研究所 )

ほか
発表論文等

Leon and Nedumaran (2024) Sci. Total Environ. 23: 177385.
https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2024.177385

日本語PDF

2024_A05_ja.pdf987.39 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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