熱帯モンスーン地域における水稲再生二期作は貯水池水資源管理の向上に寄与する

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気候変動総合
要約

熱帯モンスーン気候下の灌漑地区では、貯水池運用が雨季の降水量に大きく依存し、水利用が不安定になりやすい。貯水池運用シミュレーション分析によると、雨季初頭に作付けを開始する再生二期作は、従来の水稲二期作と比べ、灌漑供給量を最大51%削減しつつ、水生産性を60~87%向上させる。再生二期作は、水資源が限られる灌漑地区において、安定的な水利用に寄与する作付体系として有望である。

背景・ねらい

 再生イネによる水稲再生二期作*は、育苗、代かき、田植えを省略でき、生育期間が短いため、従来の水稲二期作と比較して、労働力、灌漑水量、資材投入を大幅に削減できる作付システムである。特に、熱帯モンスーン気候下の灌漑地区では、安定的な水利用に貢献する可能性がある。しかし、これまで灌漑地区レベルでその効果は検証されていない。また、水利用が制約される地域では、地域特有の水資源量の変動に応じた灌漑期間や作付面積の適切な調整が不可欠である。
 本研究では、熱帯モンスーン気候下で乾季の水利用が制限され、雨季の作付けが優先されるミャンマー・イエジン灌漑地区を対象とし、水稲再生二期作の導入が貯水池運用に及ぼす影響を評価することを目的とする。

*再生二期作:最初の稲の収穫後に株元から再び生えてくる新芽(ひこばえ)を利用し連続してイネを栽培する方法。

成果の内容・特徴

  1. 再生イネの蒸発散量を推定するため、2019~2020年の栽培試験データをもとに作物係数**を定義する。過去23年間の水文データを用い、水稲一期作・二期作および再生二期作・三期作の作付パターンと作付面積を考慮した貯水池の水量変動をシミュレーションし、貯水不足率***および信頼性****指標を算定する。さらに、2021~2022年の栽培試験データ(10作4反復)を基に、収穫日、気象データ(平均値・累積値)、刈取り高を特徴量とした収量予測の機械学習モデルを構築し、シミュレーションで算出した灌漑供給量に基づき水生産性*****を算定する(図1)。
  2. 水稲一期(雨季の作付面積3,600 ha)では、雨季の始め(6月上旬)に作付を開始することで、貯水不足を回避しつつ、水生産性1.5 kg m−3以上を確保できることを示す(図2)。また、水稲二期作では、乾季作を 1,400 ha(年間作付面積5,000 ha以下)に制限することで、貯水池運用において許容範囲である信頼性0.8以上を確保できることを示す(図3)。
  3. 再生二期作では、乾季から作付を開始すると貯水不足により二期作の継続が困難となる。一方、雨季の始めに作付けを行うと、水供給が一時的に不足する場合があるものの、信頼性0.8以上を確保できる。また、従来の水稲二期作と比較して、水生産性を60~87%向上させ、貯水池のより効率的な運用が可能(図3)。
  4. 再生三期作を実施するには、作付けを4月中旬に遅らせ、年間作付面積を4,400 ha以下に縮小して、信頼性0.8以上を確保する必要がある。しかし、作付けの遅れにより籾生産量が低下し、水生産性は0.45〜0.48 kg m−3と低水準となる(図3)。

**作物係数:標準的な基準蒸発散量に基づき、実際の蒸発散量を推定するためのパラメータ。
***貯水不足率:年間必要用水量に対する貯水不足量の割合。
****信頼性:総日数に対して供給不足が発生しなかった日数の割合。
*****水生産性:作付期間における灌漑供給量当たりの籾生産量。

成果の活用面・留意点

  1. 本シミュレーション手法を活用することで、熱帯地域の灌漑水稲作における水不足リスクや水生産性を総合的に評価し、気候変動への適応策として、水資源の持続的利用を目指した作付けおよび灌漑計画を立案することが可能となる。
  2. 本手法を他地域に適用するには長期間の水文・気象データに加え、作物や作付面積、土壌の水分保持特性などの情報を収集する必要がある。
  3. 再生二期作の実践においては、降雨を避けた適切な収穫時期の調整や、機械収穫時の刈り株踏圧による収量低下を低減する対策が求められる。

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 気候変動総合

科研費 » 挑戦的研究(開拓)

科研費
研究期間

2021~2024年度

研究担当者

白木 秀太郎 ( 農村開発領域 )

科研費研究者番号: 90837501
見える化ID: 001751

Kywae ( ミャンマー国農業研究局 )

Nwe Ni ( ミャンマー国農業研究局 )

Thin Mar Cho ( ミャンマー国農業研究局 )

Aung Kyaw Thu ( ミャンマー国農業研究局 )

ほか
発表論文等

Shiraki et al. (2025) Agric Water Manage.
https://doi.org/10.1016/j.agwat.2024.109251

日本語PDF

2024_A04_ja.pdf1.17 MB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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