腫瘍壊死因子(TNFα)はマウスのトリパノソーマ感染抵抗性に寄与している

要約

トリパノソーマ・コンゴレンス原虫を感染させた腫瘍壊死因子(TNFα)遺伝子欠損マウスの病態を解析することによって、TNFαはマウスにおける原虫増殖を抑制し、トリパノソーマ抵抗性に寄与していることが判る。

背景・ねらい

  トリパノソーマ症は原虫によって引き起こされる人および家畜の感染症であり、アフリカ大陸の湿潤、亜湿潤地域に蔓延し、当該地域の家畜生産性を著しく阻害している。これら発展途上地域においては、急激な人口増加と食生活レベルの向上に伴い畜産物の需要が今後もさらに増加し続けると考えられ、トリパノソーマ症などの家畜感染症の防除は重要課題である。近年、国際家畜研究所(ILRI)においてトリパノソーマ症の抵抗性に関わる遺伝子の連鎖解析がマウスならびに牛を用いて行われ、腫瘍壊死因子(TNFα)がその有力な候補遺伝子のひとつとして浮かび上がってきた。本共同研究においては、家畜衛生試験場で作出されたTNFα遺伝子欠損マウス(KOマウス)を用いてTrypanosoma congolense原虫の感染実験を実施し、感染マウスの病態解析を通じてトリパノソーマ症におけるTNFαの役割を解明することを目的とする。

成果の内容・特徴

  1. KOマウスは T.congolense 原虫の感染に対して極めて高い感受性を示し、ほとんどの個体が感染後30日から40日のうちに衰弱し、死亡する(図1)。KOマウスの平均生存日数は34日であり、野生型マウスの63日に比べて有意に短い(図2)。これらの結果からTNFαはマウスのトリパノソーマ抵抗性を決定するうえで極めて重要な役割を果たしていることが強く示唆される。
  2. KOマウスでは野生型マウスに比べて末梢血中の原虫密度が有意に高い値を示し、TNFαは原虫の増殖を制御する上でも重要な役割を果たしていることが示唆される(図3)。
  3. 原虫に対する特異的抗体、急性期応答蛋白質、あるいはサイトカインなどの生体防御関連物質の産生動態については、KOマウスと野生型マウスとの間に大きな差違は認められない。また、トリパノソーマ感染にともなう貧血の程度についても両マウス系統の間に違いは認められない。

成果の活用面・留意点

  1. トリパノソーマ感染抵抗性においてTNFαは重要な役割を果たしている。この知見はトリパノソーマ抵抗性家畜の育種のための基礎的知見となる。
  2. トリパノソーマ感染抵抗性におけるTNFαの作用機構の詳細について、さらに解析する必要がある。

具体的データ

  1.  

    図1 感染35日後のマウスの状態
  2.  

    図2 トリパソノーマ感染マウスの生存曲線
  3.  

    図3 感染マウス末梢血の原虫密度の変化
Affiliation

国際農研 畜産草地部

国際畜産研究所

分類

研究

予算区分
経常
研究課題

トリパノソーマ症におけるTNFαの役割解明

研究期間

平成12年度(9~11年度)

研究担当者

木谷 ( 畜産草地部 )

ほか
発表論文等

Kitani et al . (1999) Acute phase response in TNFα deficient mice during Trypanosoma congolense infection. Proceedings of 25th Meeting of the International Scientific Council for Trypanosomiasis Research and Control (ISCTRC) p179.

Kitani et al. (2000) The roles of TNFα in genetic resistance of mice to Trypanosoma congolense infection. Proceedings of International Veterinary Cytokine and Vaccine Conference p.310-311.

日本語PDF

2000_18_A3_ja.pdf716.11 KB

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