DNAマイクロアレイを用いたマウス肝におけるトリパノソーマ抵抗性候補遺伝子の検出

要約

多数の遺伝子断片をスライドグラス上に固定したDNAマイクロアレイを用い、トリパノソーマ症マウスにおける発現遺伝子を網羅的に調べることにより、トリパノソーマ抵抗性因子の候補遺伝子を検出することができ、マウス肝では169遺伝子が候補遺伝子として発現している。

背景・ねらい

   トリパノソーマ症はアフリカ等に蔓延する家畜および人の原虫性疾病で、当該地域の畜産に対する大きな阻害要因となっている。感染や発病に対する抵抗性が動物の品種あるいは系統により異なることが知られており、抵抗性因子の同定が防除法確立にむけての重要な課題となっている。これまでに、症状や生体変化から特定の因子に着目してその抵抗性との関連を探る解析が進められているが、この手法は抵抗性機構の全貌を解明するには効率的ではない。そこで、多数の遺伝子発現プロファイルを一度に調べることのできるDNAマイクロアレイを作製し、トリパノソーマ抵抗性の異なるマウス系統間における抵抗性候補遺伝子の網羅的な検出を行う。

成果の内容・特徴

  1. 7,445種の遺伝子断片からなる市販マウスオリゴライブラリーをスライドグラス上に固定して、DNAマイクロアレイを作製する。
  2. C57マウス(トリパノソーマ抵抗性系統)およびAJマウス(同、感受性系統)にトリパノソーマ原虫を感染させる。組織よりRNAを抽出し、赤色あるいは緑色蛍光色素を標識したcDNAを合成する。DNAマイクロアレイと反応させて蛍光強度比を測定することにより、マウス系統間で発現量が異なる遺伝子を検出する(図1)。
  3. 原虫感染後17日までの、肝における遺伝子発現を解析すると、総計169遺伝子の発現量がマウス系統間で異なっている(図2)。これらの中には、トリパノソーマ抵抗性を決定する因子の有力な遺伝子候補として、急性期蛋白(感染の初期段階に血中に著名に増加する蛋白質)、サイトカイン、細胞内シグナル伝達因子、補体系、転写調節因子、電子伝達系、代謝関連酵素、イオンチャンネル等の蛋白をコードする遺伝子等が挙げられる(表1に遺伝子の一例を示す)。

成果の活用面・留意点

   DNAマイクロアレイを用いて肝以外の組織についても解析し、感染経過における発現遺伝子のプロファイルを全て把握する必要がある。また、家畜や人のトリパノソーマ症研究への発展的応用が期待される。

具体的データ

  1.  

    図1
  2.  

    図2
  3.  

    表1
Affiliation

国際農研 畜産草地部

分類

研究

予算区分
国際プロ〔トリパノソーマ〕
研究課題

トリパノソーマ症の発症機構及び感染抵抗性機構の解明

研究期間

2002年度(2000~2002年度)

研究担当者

中村 義男 ( 畜産草地部 )

八木 行雄 ( 農研機構 動物衛生研究所 )

木谷 ( 農業生物資源研究所 )

土屋 佳紀 ( 農研機構 動物衛生研究所 )

ほか
日本語PDF

2002_14_A3_ja.pdf774.84 KB

English PDF

2002_14_A4_en.pdf62.76 KB

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