カットソイラー(浅層暗渠)による土壌塩分・pHの改良効果は施工間隔2.5mで高い
日本で開発されたトラクターアタッチメント「カットソイラー」による浅層暗渠は、灌漑に起因した土壌塩類化や地中ソーダ質化の軽減に貢献する。同工法は、インド北部のヒンドゥスターン平野での2.5m間隔の施工により、土壌塩類化地域では土壌塩分を52%低減させ、また、土壌ソーダ質化地域での石膏併用により、土壌pHを0.16低下させる。
背景・ねらい
インド北部のヒンドゥスターン平野では、高塩分濃度の地下水による塩水灌漑と圃場の排水不良による塩分の残留により、土壌の塩類化が深刻な課題となっている。また、ナトリウムイオンの割合が多くなる土壌のソーダ質化も生じており、特に地中ソーダ質化にともなう排水不良が深刻化している。同工法は、カットソイラーをトラクターで牽引するだけで、作物残渣や土壌改良剤などを地中(深さ40~60 cm程度)に埋設でき、安価で容易に浅層暗渠を施工できるため、開発途上地域の農家が営農活動の一環として実践できる対策として有望である。本研究では、ヒンドゥスターン平野の塩類化土壌地域において、本工法で最も大きな効果が得られる最適な施工間隔(2.5、5.0、7.5、10.0 m)を検討する。また、ソーダ質化土壌への対策は石膏(CaSO4)を散布し、ナトリウムイオンとCaを置き換えて洗い流す手法が有効であることから、本工法をソーダ質化地域に適用し、稲わらと石膏の同時埋設が土壌pHに及ぼす影響を検証する。
成果の内容・特徴
- 本工法では、圃場面に散在している稲・麦わらなどの収穫残渣を、カットソイラーを装着したトラクターによる走行のみで土中に埋設することができ、安価で容易に暗渠孔を構築することができる(図1)(2022国際農研研究成果情報「カットソイラーによる浅層暗渠は土壌塩分を軽減する」)。
- 本工法は石膏などの土壌改良剤も併用できるため、地中ソーダ質化対策にも貢献し得る。
- 浅層暗渠を、2.5、5.0、7.5、または10.0 m間隔で施工した場合、施工から約3年が経過した時点での土壌塩分(ECe)の低減効果は施工間隔2.5 mで最も高い(図2)。
- 施工間隔が2.5 mの場合に雨季作(トウジンビエ)の収量が最大となる(図3)。
- カットソイラーにて深さ40 cmに稲わら(6 t ha-1)と石膏(10 t ha-1)を埋設する浅層暗渠を2.5、5.0、または10.0 m間隔にて施工した場合、施工から2年が経過した時点での土壌pHの低減効果は、施工間隔2.5 mで最も高い(図4)。
- カットソイラーによる浅層暗渠の土壌pHの低下量は、施工ラインに近いほど大きい(図5)。
成果の活用面・留意点
- 本工法はトラクターにて容易に施工できるため、同様の塩類化地域へ幅広く適用できる。
- カットソイラーによる浅層暗渠を中心とした「技術マニュアル」を作成し、幅広く周知する。
- インドではインド農業研究委員会(ICAR)やインド中央塩類土壌研究所(CSSRI)を通じて、利用促進を図る。
- 圃場周辺の排水環境により、カットソイラーによる浅層暗渠の施工方法が異なるため、排水状況を事前確認しておく必要がある。
- カットソイラーは輸送用の車輪を備えていない。
- カットソイラーの耐用年数は、年間30~50 haの施工で約7年間を想定。なお、フレームに支障がなければ、消耗品の交換により継続利用が可能。
具体的データ
- 分類
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技術
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 持続的土地管理
- 研究期間
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2018~2024年度
- 研究担当者
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Yadav Gajender ( インド中央塩類土壌研究所 )
Yadav Rajender Kumar ( インド中央塩類土壌研究所 )
ORCID ID0000-0003-1436-2072Rai Arvind Kumar ( インド中央塩類土壌研究所 )
Kumar Satendra ( インド中央塩類土壌研究所 )
Neha ( JSPS外国人特別研究員(一般) )
大西 純也 ( 農村開発領域 )
亀岡 大真 ( 農村開発領域 )
松井 佳世 ( 農村開発領域 )
科研費研究者番号: 10814189李 根雨 ( 社会科学領域 )
ORCID ID0000-0001-5623-6205科研費研究者番号: 80836643北川 巌 ( 農研機構 農村工学研究部門 )
- ほか
- 発表論文等
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Gajender Y et al. (2024) Journal of Arid Land Studies 34(S), 21-24.https://doi.org/10.14976/jals.34.S_21Rajender KY et al. (2024) Journal of Arid Land Studies 34(S), 29-32.https://doi.org/10.14976/jals.34.S_29
- 日本語PDF
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2024_A10_ja.pdf1.14 MB
- English PDF
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2024_A10_en.pdf503.69 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。