タイ産の高い塩分耐性を持つ新規ジュズモ属緑藻によるウシエビの生産性向上
東南アジアで重要な養殖対象種であるウシエビとジュズモ属緑藻(未記載種)を混合養殖する技術を開発した。ジュズモ属緑藻はウシエビの排泄物や残餌から生じる栄養塩類を摂取し成長するとともにエビの餌となることから、混合養殖により生産性を向上させることができる。
背景・ねらい
東南アジア諸国における主要輸出水産物のひとつである熱帯産クルマエビ類は、当該地域の零細・中小養殖業者の収入を支えている。しかしながら近年では、高密度養殖並びに大量給餌等による集約的養殖池の自家汚染により生産性が低下し、大きな問題となっている。
熱帯沿岸域養殖プロジェクトでは、未利用資源を活用したウシエビとの混合養殖技術の開発を行っている。ジュズモ属緑藻は高い塩分耐性を持ち、栄養塩類の摂取能も高いと考えられることから、ウシエビとの混合養殖により養殖池の環境を保ちながら生産性を向上させることが期待できる。
成果の内容・特徴
- タイ中部沿岸において発見したジュズモ属緑藻(図1)は、形態並びに生態観察、遺伝子解析の結果未記載種であると推察される。
- 野外調査の結果、本ジュズモ属緑藻は塩分3.4–90 psuの止水池や用水路などに生育する。このような高い塩分耐性のため、幅広い塩分環境で養殖されている熱帯産クルマエビ類との混合養殖に適すると期待される。
- 室内実験の結果、好適塩分及び水温(20–30 psu及び30℃)条件下では約60% day-1の高い日間成長率を示し、2 mmの藻体が1週間で約20 cmに成長する(図2)。
- 本ジュズモ属緑藻は、20.4%のタンパク質並びに64.8%の炭水化物(うち繊維質21.8%)を含有する。またウシエビは本種を好んで摂餌する。
- 室内実験の結果、混合養殖ではエビ単一養殖に対し、57%の成長促進並びに39%の増肉係数*改善が認められる(表1)。
* 一定量の体重を増加させるのに必要な餌料量を示す指数。値が低い方が効率が良い。
増肉係数 = 与えた人工餌料の量(乾重) ÷ 増えた体重(湿重)
成果の活用面・留意点
- ウシエビと同様に広い塩分範囲で養殖されているバナメイエビやクルマエビなど、世界中のクルマエビ類養殖池にも活用できる可能性がある。
- 実用化のためには、より養殖環境に近い素掘り池などでの実証試験が必要である。
- 技術普及のためには、生産されたエビの色や味など、消費者視点の分析が必要である。
- 本研究に用いた種は、2009年度成果情報「海藻ジュズモ属の一種との混合飼育下でのウシエビの成長促進」で用いたジュズモ属緑藻とは別種であり、本種の方が塩分耐性もウシエビの嗜好性もより高い。
具体的データ
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図1 ジュズモ属緑藻とウシエビ.左上は藻体の顕微鏡写真
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図2 様々な塩分・水温におけるジュズモ属緑藻の平均日間成長率.
Tsutsui et al. (2015) Int Aquat Res 7:47–62を改変 -
表1 単一養殖と混合養殖におけるウシエビの成長率、増肉係数の比較
- Affiliation
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国際農研 水産領域
- 分類
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研究B
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 熱帯沿岸域養殖
- 研究期間
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2015年度(2011-2015年度)
- 研究担当者
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筒井 功 ( 水産領域 )
科研費研究者番号: 80425529Aue-umneoy Dusit ( キングモンクット工科大学ラカバン )
- ほか
- 発表論文等
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Tsutsui et al. (2015) Int Aquat Res 7:47–62
Tsutsui et al. (2015) Int Aquat Res 7:193–199
- 日本語PDF
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- English PDF
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2015_C12_A3_en.pdf120.43 KB
- ポスターPDF
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2015_C12_poster.pdf337.48 KB