海藻ジュズモ属の一種との混合飼育下でのウシエビの成長促進

要約

不要とされているエビ養殖池に繁茂する海藻(ジュズモ属の一種)をウシエビとともに飼育した。ウシエビは本種を積極的に摂餌し、稚エビ齢(16,44,58,93,128日齢)のいずれにおいても、海藻と混合飼育するとウシエビは良好な成長を示す。

背景・ねらい

ウシエビは1990年代から東南アジアにおいて重要な輸出産物である。中でもタイは集約的エビ養殖の先進国であるが、エビ池造成に伴う環境破壊およびウイルス病の頻発が深刻な阻害要因となっている。このような問題を改善するために零細養殖業者に向けた低投資かつ持続的な汽水産エビ養殖技術を開発・提案する。当該地域で主流であるエビの集約的単一養殖池に海藻類を生育させ、水の浄化を行うとともに、天然により近い養殖環境を作り出し、エビのストレスの低減を図ることで安定的な生産に資する。本成果は、エビ養殖業者らによって本来廃棄されている海藻をあえて利用し、ウシエビに対する本海藻の餌料効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. ウシエビに充分な人工餌料を与えているにも関わらず、エビはジュズモ属の一種(Chaetomorpha ligustica)を積極的に摂餌する。本海藻を食したウシエビ排泄物は緑色で、クロロフィルa含量はエビ単一飼育区(単一区)に比較して20-50倍となった(図1,4)。
  2. 単一区と比較して海藻混合飼育区(混合区)では、日令に関わらずウシエビの日間成長率が増加していた。特に若令期のウシエビでは顕著である(図2)。
  3. 本海藻は低塩分海水でも発育するので、雨期と乾期で塩分変動の激しい汽水産エビ養殖池に適している。水温20-30°Cの広い温度帯で生育が良好であり、東南アジア諸国の汽水産エビ養殖池に十分適用できる。水中無機栄養塩の摂取が良好で、水質の浄化にも適している(図3)。
  4. ウシエビと本種との混合養殖を池に応用した場合、投餌量が抑えられ、従来の単一養殖法と同様の収量が得られるにも関わらず、生産コストが低くなる。

成果の活用面・留意点

  1. 海藻により水質が安定するため、大型曝気装置や水交換のような池環境維持のためのガソリン・電気代等のコストが抑えられ、生産効率が高くなるとともに温室効果ガス削減につながると推察できる。
  2. 投下資本が少なく零細養殖業者にも適用が可能である。
  3. 海藻を餌料として利用し、稚エビの成長促進が期待できることからコスト低減できる。
  4. 海藻類は安定的に生育し、酸素の供給にも寄与し、良好な水質を長期間に比較的容易に維持できることから、エビ養殖池の持続的利用に有効である。
  5. 海藻によるエビのストレス軽減作用や免疫賦活作用、さらに現在タイ国内で蔓延している疾病に関する防除効果については今後さらに検討が必要である。

具体的データ

  1.  

    図1 各日齢における稚ウシエビ排泄物中に含まれるクロロフィルa量
    図1  各日齢における稚ウシエビ排泄物中に含まれるクロロフィルa量
    J1=稚エビ1日令、単一区(橙)、混合区(緑)*p<0.05、**p<0.01
  2.  

    図2 各日齢における稚ウシエビ成長率 単一区(橙)、混合区(緑) *p<0.05、 NS:有意差なし
    図2 各日齢における稚ウシエビ成長率
    単一区(橙)、混合区(緑) *p<0.05、 NS:有意差なし
  3.  

    図3 ウシエビ・海藻混合養殖下における飼育水中の無機栄養塩類の変化
    図3 ウシエビ・海藻混合養殖下における飼育水中の無機栄養塩類の変化
  4.  

    図4 水槽内でジュズモの一種を積極的に摂餌するウシエビ
    図4 水槽内でジュズモの一種を積極的に摂餌するウシエビ
Affiliation

国際農研 水産領域

分類

研究B

予算区分
国際プロ〔水産養殖〕
研究課題

環境に配慮した持続的生産のための複合養殖システムの開発

研究期間

2009年度(2006~2010年度)

研究担当者

浜野 かおる ( 水産領域 )

筒井 ( 水産領域 )

科研費研究者番号: 80425529

SRISAPOOME Prapansak ( カセサート大学 )

Aue-umneoy Dusit ( キングモンクット工科大学ラカバン )

ほか
発表論文等

Tsutsui et al. (2009) Aquaculture International 17

https://doi.org/10.1007/s10499-009-9274-2

日本語PDF

2009_seikajouhou_A4_ja_Part12.pdf247.22 KB

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