屋内型エビ生産システムで飼育されたバナメイエビのおいしさ

要約

薬を使用せず環境にやさしい養殖法である屋内型エビ生産システムで飼育されたバナメイエビは、商品価値として重要なおいしさ(遊離アミノ酸含量)に関しても国内産クルマエビと同等で、外国産輸入クルマエビ類よりも優れている。

背景・ねらい

世界の養殖エビ生産量は上昇し続けているが、養殖エビの主産地である東南アジアでは、エビ養殖池をつくるためのマングローブ林の伐採や、病気を防ぐための薬の使用などが環境問題を引き起こしており、持続的なエビ養殖を実現するには、これらの課題を解決することが必須となる。JIRCASでは、このような課題解決のために様々な研究開発に取り組んできた。その過程において、陸上養殖を可能にする「飼育水を循環させて再利用する方式」と病気の発生を防ぐための「外部と遮断された施設」を採用した屋内型エビ生産システム(ISPS)を開発し、バナメイエビを事業規模で生産することに成功している。しかし、ISPSでは生産コスト削減のために低塩分水(海水の約1/6の塩分)を使用するため、飼育水の塩濃度により組織中アミノ酸含量が変化しやすいエビ類の性質上、おいしさ(アミノ酸含量)の低下が懸念される。本研究はISPSで飼育されたバナメイエビのおいしさを科学的に評価することを目指したものである。

成果の内容・特徴

  1. 遊離アミノ酸は水産物の味を決める主成分で、甘味・うま味・風味の向上に重要な役割を果たす。ISPSで飼育されたバナメイエビ(図1)と市販の日本産養殖クルマエビおよび外国産輸入クルマエビ類4種について筋肉中の遊離アミノ酸含量を調べた。これら6種のエビでは、グルタミン、グリシン、アルギニンが主要な遊離アミノ酸である。
  2. ISPSで飼育されたバナメイエビは、輸入エビと同等の餌を給餌しているのにも関わらず、そのグリシン含量、グルタミン含量、および総遊離アミノ酸含量(遊離アミノ酸19種類の合計)は日本産クルマエビと同程度以上で外国産輸入エビよりも高い値を示す(図2)。以上のように、ISPSで飼育したバナメイエビは、「おいしさ」に重要な役割を果たす各種遊離アミノ酸含量が、日本産クルマエビと同等で外国産クルマエビ類よりも高いという、優れた品質をもち、高い市場評価も得ている。

成果の活用面・留意点

  1. 薬剤を一切使わずにバナメイエビの陸上養殖が可能なISPSは、環境に優しいだけでなく「おいしさ」という高い付加価値をもったエビを生産できる。このようなISPSは、エビ養殖による環境破壊が進んでいる東南アジア諸国はもちろん、近年、水産物の需要が高まっている欧米諸国においても普及可能な技術である。
  2. ISPSの普及は、持続的なエビ養殖業の実現に大きく貢献する。
  3. 海外におけるISPSの普及のため、対象途上地域の特性や需要に合わせたシステムの改良、コストの低減が必要である。

具体的データ

  1.  

    図1 ISPSで生産されたバナメイエビ
    図1 ISPSで生産されたバナメイエビ
  2.  

     
    図2 各種クルマエビ類の筋肉中遊離アミノ酸含量の比較 (mg/筋肉100g)
    図2 各種クルマエビ類の筋肉中遊離アミノ酸含量の比較 (mg/筋肉100g)

    A. ISPS飼育バナメイエビ Litopenaeus vannamei
    B. 日本産クルマエビ Marsupenaeus japonicus
    C. ベトナム産ウシエビ Penaeus monodon
    D. サウジアラビア産インドエビ Fenneropenaeus indicus
    E. ニューカレドニア産ブルーシュリンプ L. stylirostris
    F. インドネシア産バナメイエビ L. vannamei

Affiliation

国際農研 水産領域

予算区分
受託[生研センター・イノベーション創出基礎的研究推進事業]
研究課題

バナメイエビの人為催熟技術を利用した安定的な種苗生産の確立

研究期間

2009~2011年度

研究担当者

奥津 智之 ( 水産領域 )

科研費研究者番号: 40456322

進士 淳平 ( 東京大学 )

野原 節雄 ( 株式会社アイエムティー )

野村 武史 ( 株式会社アイエムティー )

前野 幸男 ( 水産領域 )

Wilder Marcy N. ( 水産領域 )

科研費研究者番号: 70360394

ほか
発表論文等

奥津ら (2010) 水産技術 3(1):37-41.

日本語PDF

2010_seikajouhou_A4_ja_Part15.pdf232.24 KB

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