ウシエビのイエローヘッドウイルス(YHV)は共食いにより感染拡大する
室内実験により、イエローヘッドウイルス(YHV)に感染した個体を共食いしたウシエビが同ウイルスに感染し、被害が拡大することを明らかにした。共食いによる感染リスクは水を介してのそれよりも大きいことから、養殖現場においては、共食いの機会を減らす対策が重要である。
背景・ねらい
熱帯域におけるクルマエビ類の集約的養殖は、地域の経済を支える重要な産業である。しかし近年、疾病の頻発(図1)によって養殖生産が不安定化しており、早急な解決が求められている。イエローヘッドウイルス(YHV)は東南アジア諸国に多く発生するエビ病原ウイルスのひとつで、1990年に世界で初めてタイで報告されて以来、各地で深刻な被害をもたらしている。YHVの感染機構は明らかになっておらず、養殖現場では水を介した水平感染を防ぐために可能な限り水の交換を行わない。このことが水質悪化、ひいては生産性の低下につながっている。そこで、飼育実験により、ウシエビのYHV感染機構を解明し、疾病防除及び被害軽減策を提言する。
成果の内容・特徴
- YHV感染個体を共食いさせた実験区(共食い区)では、10日以内にウシエビの9割以上が重度感染し死亡する(図2、表1)。一方、フィルターを挟んで共食い区と連結した水槽(YHV汚染水区)では、共食い区に比べて感染強度や感染率、死亡率が有意に低い(図2、表1)。また、YHV汚染水区において軽度に感染しながら生き残ったウシエビのYHV感染強度は、30日後から60日後にかけて低下する(表1)。ウシエビのYHV感染は、水からよりも感染した個体を共食いすることによる方が深刻である。
- YHVに感染して死亡した個体の鰓を12及び24時間後に採取しその磨砕液を健康なウシエビに筋肉注射すると、死亡12時間後に採取した鰓の磨砕液を注射した区では4日後にすべてが死亡するが、死亡24時間後のものを注射した区では7日後に1個体が死亡するに止まる(表2)。YHV活性は、感染個体の死亡12時間後には高いが、24時間後には大きく低下する。
- 以上より、ウシエビ養殖現場においては、水中のYHVに感染する可能性は低いため、水を介した感染を恐れて水交換を避ける必要はない。また、健康な個体が感染死亡後24時間以内の個体と遭遇して共食いにいたる確率を低減する方策、例えば潜水による死亡個体の回収や低密度での生産等が、YHVの感染防除に有効である。
成果の活用面・留意点
- 適切に養殖池の水を交換して良好な水質を維持することにより、YHVに軽度に感染した個体の快復も期待できる。
- 本成果は、SPF稚エビの導入と組み合わせることにより、一層の効果が期待できる。
- 養殖池内における最初のYHV感染要因が不明であり、さらに詳細な検討が必要である。
具体的データ
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図1 養殖池でYHVに感染して死亡したウシエビ
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図2 共食い区及びYHV汚染水区における実験開始後16日間の累積死亡率
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表1 共食い区及びYHV汚染水区における死亡・生残個体数及びその感染強度
共食い区YHV汚染水区重度感染軽度感染検出限界以下合計重度感染軽度感染検出限界以下合計死亡個体1400140325生残個体(30日後)001105510(60日後)001102810死亡個体については死亡直後に分析。生残個体については継続飼育し、30及び60日後に感染強度を再分析した。重度感染は低感度検出法(1st PCR)によって陽性が確認された個体数。軽度感染は高感度検出法(nested-PCR)による分析のみで陽性が確認された個体数。実験は、ひとつの水槽にウシエビを3個体収容し、各区5反復(合計15個体)で行った。
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表2 YHV感染死亡個体の鰓を12及び24時間後に採取し、磨砕液を健康なエビ8個体に筋肉注射した際の、16日後における死亡・生残個体数及びその感染強度
12時間区24時間区重度感染軽度感染検出限界以下合計重度感染軽度感染検出限界以下合計死亡個体80081001生残個体00000257死亡個体については死亡直後に、生残個体については16日後に分析。
- Affiliation
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国際農研 水産領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 熱帯沿岸域養殖
科研費 » 基盤研究A
- 科研費
- 研究期間
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2016年度(2011~2015年度)
- 研究担当者
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筒井 功 ( 水産領域 )
科研費研究者番号: 80425529浜野 かおる ( 水産研究・教育機構 )
科研費研究者番号: 40371827Aue-umneoy Dusit ( キングモンクット工科大学ラカバン )
- ほか
- 発表論文等
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Hamano K et al. (2015) Aquaculture, 437:161–166
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