カットソイラーによる浅層暗渠は土壌塩分を軽減する
日本で開発されたトラクターアタッチメント「カットソイラー」による浅層暗渠は、排水不良に伴う土壌塩類化の軽減に貢献する。インド北部のヒンドゥスターン平野において、同手法は土壌塩分を施工から4ヵ月後に8%、1年4ヵ月後に32%減少させる。
背景・ねらい
インド北部のヒンドゥスターン平野では、地下水を水源とした管井戸灌漑の導入により、農業生産が飛躍的に向上した。しかし、高塩分濃度の地下水を用いた灌漑と圃場の排水不良に伴う塩分の残留によって土壌の塩類化が深刻化しており、砂漠化の一因となっている。圃場に集積した塩分を除去するには、排水路や暗渠排水を整備する必要があるが、初期投資や維持管理費が必要となるため、農家による実施が困難な状況にある。そこで、本研究では、農家が取り組める持続的な排水対策を構築するため、日本で開発されたトラクターアタッチメントである「カットソイラー」による浅層暗渠を現地に施工し、その除塩効果を検証する。本技術は、カットソイラーを装着したトラクターによる牽引・走行のみで、安価で容易に浅層暗渠を施工できることから、開発途上地域の農家が営農活動の一環として実践できる塩類化対策として有望である。
成果の内容・特徴
- 従来、有材暗渠の造成には、土中に埋設する疎水材を事前に準備し、人力や機械で施工機に積込む必要がある。カットソイラーによる浅層暗渠の施工では、それらの作業が不要で、圃場面に散在している稲・麦ワラなどの収穫残渣を、カットソイラーを装着したトラクターによる走行のみで土中に埋設することができ、安価で容易に暗渠孔を構築することができる。
- カットソイラーによる浅層暗渠の施工方法は、土を逆台形状に切断して持ち上げて深さ40-60 cmまでに隙間をつくり、その隙間に地表面の残渣を120 cmの幅で掻き寄せて落とし込み、暗渠孔を造成する(図1)。
- カットソイラーにて造成される浅層暗渠(深さ約60cm)により、土壌塩分(ECe:飽和土壌から抽出した溶液の電気伝導度)は未施工区と比べ、4ヵ月後に約8%(有意差無し)、1年4ヵ月後に32%(p=0.047)減少する(図2)。
- 収量は未施工区と比べ、造成直後の乾季作(11~3月:カラシナ)において4%(有意差無し)、その後の雨季作(6~9月:トウジンビエ)において約23%(p=0.048)向上する(図3)
成果の活用面・留意点
- カットソイラーによる浅層暗渠の施工方法を冊子として紹介することで、インド国中央塩類土壌研究所(CSSRI)の塩類化対策への利用が期待される。
- 圃場内および圃場周辺の排水路状況により、カットソイラーによる浅層暗渠の施工方法が異なるため、事前に排水路の整備状況を確認しておく必要がある。
- カットソイラーは輸送用の車輪を備えていないため、長距離移動の際には、トラックに積み込む必要がある。
- カットソイラーの耐用年数は、年間30–50hの施工で約7年間を想定している。なお、フレームに支障がなければ、消耗品の交換により継続利用が可能。
具体的データ
- 分類
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技術
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
- 研究期間
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2018~2022年度
- 研究担当者
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大西 純也 ( 農村開発領域 )
幸田 和久 ( 農村開発領域 )
見える化ID: 001756松井 佳世 ( 農村開発領域 )
科研費研究者番号: 10814189安西 俊彦 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
岡本 健 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
李 根雨 ( 社会科学領域 )
ORCID ID0000-0001-5623-6205科研費研究者番号: 80836643渡辺 武 ( 企画管理室 )
大森 圭祐 ( 情報広報室 )
北川 巌 ( 農研機構 農村工学研究部門 )
Chaudhari Suresh Kumar ( インド国立農業研究委員会 )
Yadav Rajender Kumar ( インド中央塩類土壌研究所 )
ORCID ID0000-0003-1436-2072Yadav Gajender ( インド中央塩類土壌研究所 )
Neha ( インド中央塩類土壌研究所 )
Rai Arvind Kumar ( インド中央塩類土壌研究所 )
Kumar Satyendra ( インド中央塩類土壌研究所 )
Narjary Bhaskar ( インド中央塩類土壌研究所 )
ORCID ID0000-0002-3148-2204Sharma Parbodh Chander ( インド中央塩類土壌研究所 )
ORCID ID0000-0002-5783-7480 - ほか
- 発表論文等
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安西ら. (2021) 水土の知 90 (2): 31–35.
Onishi et al. (2021) Journal of Soil Salinity and Water Quality 13(2), 157–163.
https://doi.org/10.14976/jals.32.S_83Onishi et al. (2022) Journal of Arid Land Studies 32(S), 83–87.
https://doi.org/10.14976/jals.32.S_107Anzai et al. (2022) Journal of Arid Land Studies 32(S), 107–111.
https://doi.org/10.14976/jals.32.S_221Okamoto et al. (2022) Journal of Arid Land Studies 32(S),221–226.
https://doi.org/10.14976/jals.32.S_117Neha et al. (2022) Journal of Arid Land Studies 32(S), 117–122.
- 日本語PDF
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2022_A11_ja.pdf990.96 KB
- English PDF
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2022_A11_en.pdf685.41 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。