イネの穂数を増加させる遺伝子MP3は飼料用米品種「北陸193号」を増収させる
「コシヒカリ」由来の遺伝子MP3を国内最多収記録を有する飼料用米品種「北陸193号」に交配により導入した新系統「北陸193号-MP3」は、窒素施肥の有無にかかわらず、「北陸193号」と比較して穂数が21~28%増加し、6~8%増収する。新系統の利用により、肥料価格や飼料価格の高騰下における農家の安定生産へ貢献が期待される。
背景・ねらい
近年、国際情勢の影響による肥料価格および飼料価格の高騰や地球温暖化による高温障害など、国内の農畜産業を取り巻く環境は厳しさを増している。このような状況下で、生産性に優れた飼料用米を利用することは、農家の収益および経営の安定化を図るため戦略の1つとして考えられる。
これまでにイネ品種「コシヒカリ」からインディカイネの穂数を増加させる遺伝子MP3を同定し、インディカ多収品種「タカナリ」にMP3を交配により導入した結果、穂数および籾数が約20%増加し、高CO2環境下で約6%の増収を達成した(令和5年度国際農林水産業研究成果情報「穂数を増加させる量的遺伝子座MP3は高CO2環境でイネを増収させる」)。しかしながら、自然大気CO2環境では増収が見られず、その要因として「タカナリ」の光合成能力不足が考えられた。
一方、国内最多収記録(玄米収量でヘクタール当たり13 t)を持つインディカ飼料用米品種「北陸193号」は、成熟期でも光合成能力に余力があることが示唆されており、MP3の導入による更なる増収の可能性が期待される。本研究では、MP3を「北陸193号」に導入した新系統を開発し、新系統が異なる窒素施肥を行った環境で増収に寄与することを検証する。
成果の内容・特徴
- 「コシヒカリ」に「北陸193号」を複数回戻し交配し開発した新系統「北陸193号-MP3」(図1A)は、「北陸193号」と比較してより豊かな実りを示す(図1B)。
- 窒素施肥の有無にかかわらず、新系統の穂数は「北陸193号」と比較して21~28%増加し(図2A)、籾数も22~23%増加する(図2B)。さらに、新系統は「北陸193号」と比較して、窒素施肥区では9.7 t ha-1から10.3 t ha-1へ6%増収、窒素無施肥区でも7.7 t ha-1から8.4 t ha-1へ8%増収する(図2C)。
- 新系統は、出穂2週間後の茎部の非構造性炭水化物(NSC)が「北陸193号」より著しく減少する(図3)。このことは、新系統はこの期間により多くのNSCを穂へ転流させ、胚乳細胞の生長を促すことを示唆している。
- 「北陸193号」と新系統の成熟期における一穂内の籾のうち、6 mg以下の空籾の割合は11%と同程度である(図4)。このことは、新系統は穂数の増加に伴って増加する籾を十分に稔実させる光合成能力や転流能力を有することを示唆している。
成果の活用面・留意点
- 新系統の利用により、肥料価格および飼料価格の高騰下における農家の安定生産へ貢献が期待される。
- 栽培試験を行った2023年は、供試品種・系統の出穂~登熟にあたる8月の日平均最高気温が34℃の観測史上最高値を記録しており、こうした酷暑環境においても本成果の汎用性が期待される。
- MP3を利用することで、「北陸193号」と同等の高い光合成能力を有する世界のインディカ品種の更なる収量性向上が期待できる。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ稲作システム
科研費 » 基盤研究B
- 科研費
- 研究期間
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2022~2023年度
- 研究担当者
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髙井 俊之 ( 生産環境・畜産領域 )
Oo Aung Zaw ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-0571-0613科研費研究者番号: 90909772中野 洋 ( 農研機構 中日本農業研究センター )
ORCID ID0000-0002-0564-2550科研費研究者番号: 10414814 - ほか
- 発表論文等
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Takai et al. (2024) Field Crops Research 318: 109566.https://doi.org/10.1016/j.fcr.2024.109566
- 日本語PDF
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2024_B07_ja.pdf1.06 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。