穂数を増加させる量的遺伝子座MP3は高CO2環境でイネを増収させる

要約
温帯ジャポニカ品種コシヒカリ由来の量的遺伝子座MP3は、インディカ品種の分げつ数・穂数を20~30%増加させ、高CO2環境で6%増収させる。MP3のインディカ品種への利用により、大気中CO2濃度の上昇が続く気候変動下での国内外の持続的な稲作への貢献が期待される。

背景・ねらい

温室効果ガスの1つであるCO2の大気中濃度は、今世紀末に430~1,000ppmに達し、地球の平均気温は産業化以前(1850~1900年)に比べて1.0~5.7℃上昇すると予測されている。気温の上昇は、地域により作物の生産性に負の影響をもたらす一方で、大気中CO2濃度の上昇は、植物の光合成を促進させる正の効果を持つ。そのため、増加した光合成産物を貯蔵する籾等の器官を十分備えた作物は増収に寄与すると考えられ、これら作物の高CO2濃度下での利用は、気候変動に負けない持続的な作物生産に繋がる可能性がある。
イネの温帯ジャポニカ品種コシヒカリから見出された量的遺伝子座MP3 (MORE PANILCES 3 ) は、インディカ多収品種タカナリの分げつ発生を促進させ、穂数・籾数を増加させる(令和2年度国際農林水産業研究成果情報「量的遺伝子座MP3の導入は養分欠乏によるイネの穂数不足を緩和する」)。本研究では、マップベースクローニングによりMP3の原因遺伝子を特定し、MP3が効果を発揮するイネ品種群を明らかにするとともに、MP3によって増加した籾が高CO2環境で登熟することで増収に寄与することを検証する。

 

成果の内容・特徴

  1. MP3の原因遺伝子は第3染色体長腕に座乗するOsTB1 (TEOSINTE BRANCHED1 )であり、コシヒカリとタカナリ間で遺伝子領域内の3ヶ所に、配列の差が存在する(図1)。
  2. MP3の3ヶ所の配列差をもとにイネ品種群を分類すると、温帯ジャポニカ品種の74%、熱帯ジャポニカ品種の10%がコシヒカリと同じ配列(コシヒカリ型)をもつ。一方で、インディカ品種の60%はタカナリと同じ配列(タカナリ型)であり、コシヒカリ型は調査した191品種のうちわずかに1品種である(図2)。
  3. タカナリ型MP3を有する熱帯多収インディカ品種IR64および国内最多収インディカ品種北陸193号をコシヒカリ型MP3に入れ換えた準同質遺伝子系統(NIL)は、タカナリを背景とした場合と同様に、親品種に比べて穂数を20~30%増加させる(図3)。
  4. タカナリおよびタカナリ背景NILを大気中CO2濃度が自然条件(390ppm)および約200ppm高い開放系CO2増加条件(Free-Air CO2 Enrichment: FACE, 580ppm)の水田圃場で栽培したところ、自然条件では両者の間で収量に差は見られない一方で、FACE条件ではNILがタカナリよりも約6%増収する(図4)。

 

成果の活用面・留意点

  1. 世界の稲作面積の80%以上でインディカ品種が栽培されていることから、コシヒカリ型MP3は、大気中CO2濃度の上昇が続く気候変動に対応する国内外のイネ育種において幅広い活用が期待できる。
  2. 高温条件でのMP3の穂数および収量への効果については、今後検証が必要である。

 

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ稲作システム

受託 » JST/JICA SATREPS

科研費
研究期間

2017~2022年度

研究担当者

髙井 俊之 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 40547725
見える化ID: 1769

辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 20588511

浅井 英利 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 30599064

川村 健介 ( 社会科学領域 )

科研費研究者番号: 90523746
見える化ID: 1747

圓山 恭之進 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 10425530
見える化ID: 001781

石崎 琢磨 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 30442718
見える化ID: 001791

小林 伸哉 ( 生物資源領域 )

谷口 洋二郎 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 50462560

高橋 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 90739153

廣瀬 咲子 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

見える化ID: 1323

奈穂 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

三王(荒井) 裕見子 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 50547726

清純 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 50442827

福岡 修一 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

酒井 英光 ( 農業環境技術研究所 )

常田 岳志 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 20585856
見える化ID: 1636

臼井 靖浩 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 20631485
見える化ID: 174

近藤 始彦 ( 環境資源部 )

長谷川 利拡 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )

科研費研究者番号: 10228455

宇賀 勇作 ( 農研機構 次世代作物開発研究センター )

赤司 裕子 ( 横浜市立大学 )

井藤 ( 横浜市立大学 )

科研費研究者番号: 20373269

寛之 ( 横浜市立大学 )

科研費研究者番号: 40437512

持田 恵一 ( 理化学研究所 )

科研費研究者番号: 90387960

山本 英司 ( 明治大学 )

科研費研究者番号: 40738746

長崎 英樹 ( かずさDNA研究所 )

科研費研究者番号: 70624451

中村 浩史 ( 太陽計器 )

ほか
発表論文等

Takai et al. (2023) The Plant Journal 114: 729−742.
https://doi.org/10.1111/tpj.16143

日本語PDF

2023_B07_ja.pdf446.61 KB

English PDF

2023_B07_en.pdf145.27 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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