異なる窒素条件下でイネの根を伸長させる新奇遺伝子座

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要約

インド型イネ品種IR64の遺伝的背景をもつ染色体挿入系統YTH187はイネの根を伸長させる新奇遺伝子座を有する。qRL4.1-YP5は低濃度硝酸、qRL8.1-YP5は高濃度窒素特異的に根を伸長させる。qRL5.3-YP5qRL6.5-YP5は低濃度と高濃度の両窒素条件で根を伸長させる。

背景・ねらい

環境への窒素の影響を軽減するには、窒素利用が向上した品種の開発が期待されている。窒素利用(吸収)を促進させるには、イネの根を伸長させ、根系を大きくする改良が、戦略の一つとしてあげられる。そこで、イネの根の長さに関わる遺伝子座を同定し、系統選抜に必要なDNAマーカーの開発が期待されている。イネが利用できる窒素は、栽培環境で異なっている。灌漑水が利用できる還元的な湛水条件(灌漑水田)では、アンモニア態が主な供給窒素源である。一方、乾燥条件になりやすく酸化的な天水田や陸稲栽培では、硝酸態窒素が供給窒素源となる場合がある。そのため、利用可能な栽培条件を推定するには、アンモニア態窒素と硝酸態窒素を単独で供給窒素源とした実験条件を設定することが必要である。しかし、それぞれの供給窒素源を区別した条件で、遺伝子座を同定した例は無い。加えて、開発した技術を熱帯地域で普及するには、遺伝的背景品種が重要となる。国際稲研究所で開発されたインド型品種IR64は、熱帯地域で広く栽培されているとともに、新品種作出の親品種としても広く用いられている。IR64の遺伝的背景で根の長さに関わる遺伝子座は、インド型イネの品種改良に貢献できると考えられる。

 

成果の内容・特徴

  1. IR64の遺伝的背景で、無窒素条件で根長の長いIR69093-41-2-3-2(YP5)に由来する染色体断片が挿入された系統YTH187は、アンモニア態窒素としてNH4Cl、硝酸態窒素としてKNO3を5μMもしくは500μMに調整した4つの水耕栽培条件において、IR64よりも有意に長い根長を有する(図1と2)。
  2. YTH187が持つ根長を長くする遺伝座の中で、qRL4.1-YP5(寄与率R2=0.1)は、第4染色体上の分子マーカーであるRM3534とRM6909の間に位置し、5μM硝酸態窒素区のみで根を伸長させる(図3)。この結果から、硝酸態窒素特異的に効果があり、酸化的で低肥沃な天水田および陸稲において、効果がある可能性がある。
  3. qRL8.1-YP5R2=0.09-0.16)は、第8染色体上のRM8271とRM3395の間に位置し、500uMのNH4ClもしくはKNO3を添加した栽培条件で、根を伸長させる。この結果から、窒素施肥レベルの高い灌漑水田や天水田・陸稲栽培で効果がある可能性がある。
  4. qRL5.3-YP5 (R2=0.10-0.11)は第5染色体のRM1089とRM4691の間に位置し全ての栽培条件で、根を伸長させる。qRL6.5-YP5R2=0.12-0.22)は、第6染色体上のRM5509とRM1370の間に位置し、低濃度と高濃度の両窒素条件で、根を伸長させる。この結果から、2つの遺伝子座は、幅広い栽培条件で効果がある可能性がある。

 

成果の活用面・留意点

  1. qRL4.1-YP5, qRL5.3-YP5, qRL6.5-YP5, qRL8.1-YP5のDNAマーカー情報は、根の形態改良による窒素吸収の効率化のためのマーカー選抜に活用できる。
  2. IR64の遺伝的背景で効果が認められたので、多くの熱帯地域で栽培されている、インド型品種群の改良に貢献できる。
  3. 圃場での根量、窒素吸収量および生産性への影響は、それぞれの遺伝子座を単独で持つ準同質遺伝子系統を育成して検証する必要がある。

 

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

農産物安定生産

予算区分

交付金

研究期間

2018~2022年度

研究担当者

佐々木 和浩 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 70513688

小原 実広 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 10455248
見える化ID: 001771

ほか
発表論文等

Sasaki and Obara (2022) Soil Science and Plant Nutrition 68(4): 454–462.
https://doi.org/10.1080/00380768.2022.2088030

日本語PDF

2022_B01_ja.pdf914.02 KB

English PDF

2022_B01_en.pdf632.52 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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