乾燥ストレス条件下でイネの生長を制御する遺伝子の同定
要約
イネのOsPIL1は、細胞壁関連遺伝子の発現を制御して植物の生長を促進するbHLH型転写因子である。この遺伝子の発現は乾燥ストレス条件下において強く抑制されることから、ストレス下のイネの生長を制御する重要な因子と考えられる。
背景・ねらい
移動の自由のない植物は、干ばつなどの乾燥ストレス条件下でもその場所で耐えなければならない。そこで植物は、さまざまな遺伝子の働きを調節してこのようなストレス下でも生き延びるための機構を発達させている。乾燥ストレス下では、植物の生長は強く抑制される。この現象はストレスに対する適応の一つであると考えられているが、その分子機構は未解明の部分が多い。本研究は、イネの乾燥ストレス応答性bHLH型転写因子OsPIL1の機能を解析することにより、ストレスに適応するための植物の生長制御の機構解明を目指したものである
成果の内容・特徴
- イネのOsPIL1はbHLH型転写因子である。この遺伝子は、昼間に高い発現量を示すが、乾燥ストレス条件下ではこの発現が抑制される（図1）。
- OsPIL1遺伝子の主な発現部位は、幼植物では茎の基部、それ以降の発達段階では節である。
- OsPIL1の働きを強化したOsPIL1過剰発現イネでは細胞の大きさが増大し節間伸長が促進される（図2）。逆にOsPIL1の働きを抑制したOsPIL1機能欠損イネでは細胞の大きさが縮小し節間伸長が抑制される（図3）。
- マイクロアレイ解析により明らかとなったOsPIL1の下流遺伝子には、エクスパンシンなどの細胞壁関連遺伝子が数多く含まれる。
- エクスパンシン遺伝子のプロモーターをGUS遺伝子に繋いだレポーター遺伝子をOsPIL1遺伝子とともにイネ葉肉細胞中で一過的に発現させた解析では、レポーター遺伝子が活性化されたことから、OsPIL1はエクスパンシン遺伝子を正に制御することが示された。
- OsPIL1とフィトクロームBの相互作用は見られない。
成果の活用面・留意点
- シロイヌナズナにおける相同遺伝子PIF4はフィトクロームBとの結合によりタンパク質が分解されるが、イネのOsPIL1はフィトクロームBと相互作用しないことからフィトクロームBによる分解は起こらない。単子葉植物であるイネのOsPIL1を双子葉植物の作物に遺伝子導入する際には、この分解制御の違いに留意する必要がある。
- 乾燥ストレス耐性遺伝子を用いたストレス耐性作物の開発に関しては、これまでに多くの報告があるが、生育の低下や収量の減少が問題になっている。OsPIL1遺伝子は植物の生長を制御する重要な因子の一つであることから、OsPIL1遺伝子とストレス耐性遺伝子を併用することによって、干ばつなどのストレス下でも生長や収量が低下しない耐性作物を開発できる可能性がある。
具体的データ
- Affiliation
-
国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
-
研究A
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
-
交付金 » 環境ストレス耐性
受託 » 農林水産省・新農業展開DREB
- 研究期間
-
2012年度（2011～2015年度）
- 研究担当者
-
戸高 大輔 ( 生物資源・利用領域 )
中島 一雄 ( 生物資源・利用領域 )
科研費研究者番号: 90343772圓山 恭之進 ( 生物資源・利用領域 )
藤田 泰成 ( 生物資源・利用領域 )
篠崎 和子 ( 生物資源・利用領域 )
ORCID ID0000-0002-0249-8258 - ほか
- 発表論文等
-
Todaka, D., et al. (2012) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 109(39): 15947-15952.
- 日本語PDF
-
2012_15_A4_ja.pdf68.33 KB
- English PDF
-
2012_15_A4_en.pdf214.04 KB