ダイズの耐塩性を制御するQTLの同定

要約

耐塩性簡易評価方法を開発し、広範囲のダイズ遺伝資源の耐塩性の検定により、栽培大豆(Glycine max)FT-Abyaraと野生ダイズ(G. soja)JWS156-1を耐塩性品種として選抜した。耐塩性のQTL解析の結果、栽培ダイズと野生ダイズにおいて同じ領域に効果の大きなQTLが検出され、両者が共通の耐塩性QTLを持つことが明らかになった。同定したQTLと連鎖するDNAマーカーはダイズの耐塩性育種に利用できる。

背景・ねらい

塩害は世界のダイズ生産地帯、特に開発途上国の乾燥・半乾燥地域においてしばしば報告されている。また、地球温暖化に伴った降雨量不足および不良灌漑により塩類集積地が拡大しつつある。この問題への対応法として、耐塩性品種の育成が有力な手段である。しかし、耐塩性は遺伝的に複雑な形質とされ、育種現場での耐塩性の評価と選抜が必ずしも容易ではない。本研究では、耐塩性の評価に必要な簡易検定法を確立し、広範な栽培ダイズ(Glycine max)、および野生ダイズ(ツルマメ、G. soja)遺伝資源から耐塩性を示す遺伝資源を選抜する。さらに、耐塩性のQTL(量的形質遺伝子座)解析を行い、耐塩性育種に利用できるDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  1. 耐塩性の簡易評価法を開発した。この方法ではダイズを栽培しているポットを放置した水槽に、塩水(150 mM NaCl)を入れ、水位をポット内培土の上面と同じ約15 cmに維持し、ポットの底面および側面にある小さな穴から塩水を浸透させる。塩水処理は第2本葉展開期から3~4週間行う。水槽内の塩水はポンプで常に循環させるため、植物に塩ストレスを均一に与え、かつ、根圏に酸素を供給することが可能となる。本評価法により大量のダイズ遺伝資源を評価することができ、その再現性も高い。この方法で選抜した耐塩性ダイズ系統は従来の水耕法でもその耐塩性が確認された。
  2. 耐塩性簡易評価方法を用いて600以上の栽培ダイズ品種と野生ダイズ系統を検定した結果、ブラジルの栽培大豆品種「FT-Abyara」と日本の野生ダイズ系統「JWS156-1」が高い耐塩性を示した。
  3. 耐塩性栽培大豆品種「FT-Abyara」と塩感受性品種「C01」の組み換え固定系統(RIL集団)96系統(F7)を用いて連鎖地図を構築した。RIL分離集団の耐塩性の評価では、前述の評価法を用いた(図1)。塩水処理は第2本葉展開期から3~4週間行う。QTL解析の結果、耐塩性に関する効果の大きなQTL(寄与率44%)が連鎖群Nに検出され、耐塩性遺伝子はダイズN連鎖群でSSR DNAマーカーのSat_304-Satt237間(約7cM)に座上すると推定される(図3)。
  4. 野生種由来の耐塩性QTL解析では、塩感受性栽培大豆品種「Jackson」と選抜された耐塩性野生大豆資源「JWS156-1」の交雑に由来するF2世代分離集団の225個体を供試した。耐塩性の評価法は、120 mMのNaClを含む水耕液で約3週間生育させた(図2)。効果の大きい耐塩性QTL(寄与率68.7%)が検出された(図2)。このQTLにおいて、耐塩性の対立遺伝子は野生ダイズに由来し、塩感受性対立遺伝子に対して不完全優性を示した。野生種由来耐塩性QTLは、栽培大豆FT-Abyaraで検出されたQTLと同じ領域に位置し、野生大豆資源と栽培大豆が共通の耐塩性QTLを持つことが明らかになった。

成果の活用面・留意点

  1. 本研究で同定されたQTLと連鎖するSSRマーカーSat_304、Sat_091、Satt237などはダイズの耐塩性DNAマーカー育種に利用できる。
  2. さらに効率的な耐塩性育種を行うためには、耐塩性遺伝子とさらに緊密に連鎖するマーカー、あるいは耐塩性遺伝子内部のDNAマーカーを獲得する必要がある。

具体的データ

  1.  

    図1.
    図1.栽培大豆品種「FT-Abyara」(耐塩性)と「C01」(塩感受性)の交雑に由来する96 RIL系統 (F7世代)における塩処理後塩害指数の頻度分布(塩害指数は5段階に分類
    :1(生育正常)~5(個体枯死))
  2.  

    図2
    図2.塩感受性栽培大豆品種「Jackson」と耐塩性野生種系統「JWS156-1」の交雑に由来するF2世代分離集団の225 F2個体における塩処理後塩害指数の頻度分布(塩害指数は5段階に分類
    :1(生育正常)~5(個体枯死))
  3.  

    図3.
    図3.栽培ダイズ品種「FT-Abyara」(耐塩性)と「C01」(塩感受性)の交雑に由来する96 RIL系統 (F7世代)における連鎖群Nに検出された耐塩性のQTL
  4. 図4.
    図4.塩感受性栽培大豆品種「Jackson」と耐塩性野生ダイズ系統「JWS156-1」の交雑に由来するF2世代分離集団の225 F2個体における連鎖群Nに検出された耐塩性のQTL.
Affiliation

国際農研 生物資源領域

分類

研究

予算区分
交付金〔不良環境耐性〕
研究課題

不良環境作物開発

研究期間

2008年度(2006~2010年度)

研究担当者

東河 ( 生物資源領域 )

科研費研究者番号: 90425546

HAMWIEH Aladdin ( 生物資源領域 )

ほか
発表論文等

Hamwieh, A. and Xu, D.H. (2008) Conserved salt tolerance quantitative trait locus (QTL) in wild and cultivated soybeans. Breeding Science 58, 355-359.

Hamwieh, A. and Xu, D.H. (2008) QTL analysis for salt tolerance in wild soybean (Glycine soja) . 育種学研究10別1, 156.

Hamwieh, A., Benitez, E.R., Takahashi, R. and Xu, D.H. (2007) Mapping QTL conferring salt tolerance in soybean seedling stage. 育種学研究9別2, 191

日本語PDF

2008_seikajouhou_A4_ja_Part6.pdf480.56 KB

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