ダイズ耐塩性遺伝子Ncl の単離とその利用による耐塩性の向上

要約

ブラジルのダイズ品種FT-Abyaraから単離された耐塩性遺伝子(Ncl )は、植物体地上部のNa+、K+、Cl−の濃度を同時に抑制する。DNAマーカー選抜や形質転換の育種手法によってNclを導入した既存のダイズ品種は耐塩性が向上する。塩害圃場においてNcl 保有系統は高い子実収量を維持できる。

背景・ねらい

ダイズ(Glycine max)は世界で最も重要なマメ科作物であり、主要な油脂原料およびタンパク質源として、その利用は多岐にわたる。しかし、ダイズの収量は、稲やトウモロコシなどイネ科作物に比べると低く、また、干ばつ、塩害、低温などさまざまな環境ストレスの影響により不安定である。塩害は、世界のダイズ生産地帯、特に、中国等の乾燥・半乾燥地域において報告されている。わが国においても,津波や高潮による海水の流入に起因する塩害が報告されている。これらの問題への対策として、ダイズ耐塩性の遺伝的改良が有力な手段である。そこで、耐塩性の高いダイズ品種から耐塩性遺伝子を単離し、その機能および導入効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. マップベースクローニング法を用いてブラジルのダイズ品種FT-Abyaraから単離した耐塩性遺伝子(Ncl)(図1)は、第3染色体上に座乗し、この遺伝子は植物体地上部のNa+、K+、Cl濃度を同時に抑制する。
  2. 戻し交雑とDNAマーカー選抜によりNcl を導入した塩感受性品種Jacksonや、形質転換法によりNcl を過剰に発現させた塩感受性品種カリユタカは耐塩性が向上する(図2、3)。
  3. Ncl 準同質遺伝子系統を用いて塩害圃場で評価すると、Ncl を持つダイズ系統は塩処理圃場でも高いダイズ収量を維持でき、耐塩性系統の子実重は平均して塩感受性系統の子実重の4.6倍である(図4)。

成果の活用面・留意点

  1. Ncl は、旧名qNaCl3として2014年2月17日に特許出願(日本)、同年11月28日に特許登録済みである。
  2. Ncl は、DNAマーカー選抜や遺伝子組換えなど分子育種の手法で既存ダイズ品種に導入することが可能である。

具体的データ

  1. 図1 耐塩性遺伝子(Ncl)の物理的地図

    図1 耐塩性遺伝子(Ncl)の物理的地図
    n: マップベースクローニング解析に用いた分離集団の個体数

  2. 図2 DNAマーカー選抜手法でNcl遺伝子を塩感受性ダイズ品種Jacksonに導入した系統(BC4F3-J1T、左)と未導入系統(BC4F3-J1S、右)の塩ストレス下における生長比較

    図2 DNAマーカー選抜手法でNcl遺伝子を塩感受性ダイズ品種Jacksonに導入した系統(BC4F3-J1T、左)と未導入系統(BC4F3-J1S、右)の塩ストレス下における生長比較
    塩処理は、100 mMのNaClを含む水耕液で約3週間生育させた。

  3. 図3 塩感受性ダイズ品種カリユタカでNclを過剰に発現させた系統(右)の塩ストレス下における生育の様子

    図3 塩感受性ダイズ品種カリユタカでNclを過剰に発現させた系統(右)の塩ストレス下における生育の様子
    塩処理は、100 mMのNaClを含む水耕液で約3週間生育させた。

  4. 図4 塩害圃場におけるNclの耐塩性効果

    図4 塩害圃場におけるNclの耐塩性効果。
    a: Ncl準同質遺伝子系統N18-61(感受性)とN18-99(耐塩性)の塩害圃場における生育の様子。b: Ncl準同質遺伝子系統の塩害圃場における子実収量。塩処理は、海水の約1/4濃度の塩水を灌水した。**は1%水準で有意、バーは標準誤差。

Affiliation

国際農研 生物資源・利用領域

分類

研究A

研究プロジェクト
プログラム名

食料安定生産

予算区分

交付金 » 畑作安定供給

科研費 » 基盤研究C

科研費
研究期間

2015年度(2011-2015年度)

研究担当者

東河 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 90425546
見える化ID: 001767

庄野 真理子 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

見える化ID: 001790

末永 一博 ( 生物資源・利用領域 )

見える化ID: 001799

Duc Do Tuyen ( 生物資源・利用領域 )

Chen Huatao ( 生物資源・利用領域 )

Hien Vu Thi Thu ( 生物資源・利用領域 )

Hamwieh Aladdin ( 生物資源・利用領域 )

山田 哲也 ( 北海道大学 )

佐藤 雅志 ( 東北大学 )

科研費研究者番号: 40134043

勇亮 ( 新疆农业大学 )

( 新疆农业大学 )

ほか
発表論文等

Do et al. (2016), Scientific Reports

https://doi.org/10.1038/srep19147

日本語PDF

2015_B04_A4_ja.pdf472.53 KB

2015_B04_A3_ja.pdf285.95 KB

English PDF

2015_B04_A4_en.pdf226.41 KB

2015_B04_A3_en.pdf181.56 KB

ポスターPDF

2015_B04_poster.pdf309.17 KB

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