国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

イネのアンモニア態窒素の吸収を向上させる遺伝子

要約

水田環境でアンモニア態窒素濃度が上昇すると、イネの根による窒素吸収能力は低下する。アンモニア態窒素吸収能力を調整する遺伝子OsACTPK1を同定した。 OsACTPK1の機能が失われたactpk1変異体では、アンモニア態窒素の吸収が向上する。

背景・ねらい

窒素は作物の生育や生産性を大きく左右する最も重要な栄養素である。水田においてイネが主として利用するアンモニア態窒素は、「高親和的アンモニウム輸送 (HAT) 機構」と呼ばれるしくみによって吸収されている。水田のアンモニア態窒素濃度が少しでも上昇すると、イネのHAT機構による窒素吸収能力は徐々に低下する。水田で生育しているイネのHAT機構を高く維持させることができれば、イネはより多くの窒素を吸収できる可能性がある。そこで、イネのHAT機構の調節に関わる遺伝子を同定し、HAT機構の能力を維持できる遺伝子を単離することを目的とする。

成果の内容・特徴

  1. HAT機構の調節に関わる遺伝子の候補であるOsACTPK1遺伝子は、アンモニア態窒素(NH4+-N)濃度の増加にともない根での発現が増加する(表1)。
  2. OsACTPK1遺伝子にトランスポゾンTos17が挿入されOsACTPK1の機能が失われれたactpl1変異体を得た。水田で起こり得るほぼ最大のアンモニア態窒素濃度1,000 mM(18 ppm)条件では、actpk1変異体は、対照(水稲品種「日本晴」)に比べHAT機構のアンモニア態窒素吸収の最大能力を示すVmax値が約2倍であり(図1A)、HAT機構のアンモニア態窒素に対する反応性を示すKm値は対照と同程度である(図1B)。
  3. actpk1変異体によるアンモニア態窒素の吸収量は、アンモニア態窒素濃度5 mM区では対照と同程度であるが、1,000 mM区では対照に比べ32%増加する(図2A)。
  4. actpk1変異体における最も長い根(最長根)の長さは、アンモニア態窒素濃度5 mM区では対照と同程度であるが、1,000 mM区では対照に比べ22%短くなる(図2B)。actpk1変異体の根では窒素の蓄積量が多くなるために、根の伸長にフィードバックがかかり、最長根の長さが抑制されると考えられる。
  5. OsACTPK1遺伝子はHAT機構の調節に関わる遺伝子であり、OsACTPK1の機能が失われたactpk1変異遺伝子は、HAT機構の能力を高く維持させることができる(図1、図2)。

成果の活用面・留意点

  1. actpk1変異遺伝子は、アンモニア態窒素が存在する水田環境でも、窒素の吸収を向上させることから、窒素肥料の利用効率を向上させる遺伝的改良の遺伝子源として利用できる。
  2. 育種素材開発において、最長根長の低下は、HAT機構の能力を高く維持していることの表現型マーカーとして用いることができる。
  3. OsACTPK1は、植物体内に多く蓄積すると毒性を示すアンモニア態窒素を吸収しすぎないブレーキとしての調節機能を持つことから、actpk1変異遺伝子はイネの生育に何らかの影響を与えることが懸念される。様々な水田環境におけるactpk1変異体の窒素吸収と生産性を検証し、窒素吸収と生産性におけるactpk1変異遺伝子の利点と欠点を明らかにする必要がある。

具体的データ

  1. 表1 HAT機構を調節する候補遺伝子であるOsACTPK1遺伝子の詳細
    項目
    詳細
    アンモニア態窒素の増加に対する根での相対発現比
    1,071
    遺伝子番号
    Os02g0120100
    タンパク質の機能
    タンパク質リン酸化
    イネのオリゴDNAマイクロアレイ(4×44 K RAP-DB)を用いて、イネの根での発現量を相対的に比較した。5および1,000 mM NH4Clを与えて水耕法で10日間栽培した根から全RNAを調整した。
  2. 図1 OsACTPK1の機能を失ったactpk1変異体におけるHAT機構
    図1 OsACTPK1の機能を失ったactpk1変異体におけるHAT機構

    アンモニア態窒素濃度1,000 mM条件で10日間栽培したイネの HAT機構の最大反応速度 (Vmax) (A)と、アンモニウムイオンに対するHAT機構の親和性を示すミカエリス定数 (Km) (B)。対照は日本晴、actpk1変異体はOsACTPK1遺伝子にTos17が挿入された系統。グラフは3-6個体の平均値、エラーバーは標準誤差を示す。**は分散分析によるP<0.01の有意性を示す。
  3. 図2 actpk1変異体における窒素蓄積量 (A) と根長 (B)
    図2 actpk1変異体における窒素蓄積量 (A) と根長 (B)

    アンモニア態窒素濃度1,000 mM条件で10日間栽培したイネの窒素量 (A) と最も長い根の長さ(B)。対照は日本晴、actpk1変異体はOsACTPK1遺伝子にTos17が挿入された系統。グラフは6個体 (A)、14個体 (B) の平均値、エラーバーは標準偏差を示す。**は分散分析によるP<0.01の有意性を示す。
所属

国際農研生物資源・利用領域

分類

研究

研究プロジェクト

アフリカの食料問題解決のためのイネ、畑作物等の安定生産技術の開発(アフリカ食料)

プログラム名

農産物安定生産

予算区分

交付金アフリカ食料

受託農林水産省・イネの低コスト化・省力化・環境負荷低減に資する有用遺伝子の同定とDNAマーカーの開発

研究期間

2017年度(2013~2020年度)

研究担当者
  • 小原 実広 (生物資源・利用領域)
  • Beier Marcel Pascal (東北大学)
  • 早川 俊彦 (東北大学)
  • 発表論文等

    Beier M et al. (2018) The Plant Journal, 93:992-1006 https://doi.org/10.1111/tpj.13824

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