籾の大型化によってイネの窒素利用効率は向上する
籾の大型化に関わるGS3遺伝子をノトヒカリに導入して大型化した系統では、窒素利用効率が有意に増加する。GS3遺伝子を用いることで、イネの窒素利用効率が向上し、窒素肥料の使用量を減らすことができると期待される。
背景・ねらい
緑の革命は、大量の窒素肥料の投入により作物の増収を可能にしたが、深刻な環境汚染を招いた。また、このような生産体系は、窒素肥料価格の高騰に脆弱である。そのため、持続的な食料生産供給には、大量の窒素肥料に依存した生産体系からの脱却が必要であり、革新的な育種技術の開発が急務となっている。これまでに、大型の日本型イネ品種である秋田63号は、多収であり、吸収窒素量あたりの収量を示す窒素利用効率(PNUE)が高いこと、籾を大型化させるGS3遺伝子を有することを明らかにしている。そこで本研究では、GS3遺伝子を持たない品種ノトヒカリにGS3遺伝子を導入して大型化した準同質遺伝子系統(LG-ノトヒカリ)を作出し、収量、収量構成要素、施肥窒素肥料あたりの収量を示す窒素利用効率 (NUE)およびPNUEをノトヒカリと比較することにより、GS3遺伝子を用いた大型化によるNUEとPNUEへの効果を明らかにし、イネの窒素利用効率を向上させる育種技術を開発する。
成果の内容・特徴
- ノトヒカリに比較して、LG-ノトヒカリの籾は長く、幅も広いことから、GS3遺伝子はGS3遺伝子を持たないノトヒカリの籾の長さと幅を大きくする(図1)。これらのGS3遺伝子による大型化は施肥条件によらず認められる。
- ノトヒカリに比較して、LG-ノトヒカリの籾収量は、4.8 g N/m2施肥区(1 m2当たりの窒素施肥量が4.8 gの区)で34.9%、9.6 g N/m2施肥区で18.9%有意に高いが、無施肥区では同程度である。収量構成要素の一つである千粒重は、LG-ノトヒカリが無施肥区で26.0%、4.8 g N/m2施肥区で14.5%、9.6 g N/m2施肥区で23.8%有意に高い。一方、他の収量構成要素、総籾数と種子稔性はそれぞれの施肥条件において同程度である(表1)。
- 籾収量は、4.8 g N/m2施肥区のLG-ノトヒカリでは456 g/m2、9.6 g N/m2施肥区のノトヒカリでは450 g/m2と同程度である(表1)。
- ノトヒカリに比較して、LG-ノトヒカリのNUEは4.8 g N/m2施肥区では146%、9.6 g N/m2施肥区では36.4%有意に高い(図2)。
- 収穫期の地上部窒素量と玄米収量は、ノトヒカリおよびLG-ノトヒカリにおいて相関が認められる。平行線検定の結果、ノトヒカリとLG-ノトヒカリの回帰直線は異なると判定されることから、LG-ノトヒカリのPNUEは高い(図3)。
成果の活用面・留意点
- GS3遺伝子を用いた籾の大型化は、イネの窒素利用効率を向上させることから、減窒素を実現するイネ品種の育成に活用できる。
- 籾の大型化による窒素利用効率の向上効果は、原品種の籾サイズによって異なる可能性がある。
- 籾の大型化による玄米品質は、原品種の籾サイズや環境等によって低下する可能性がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 科研費
- 研究期間
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2016~2022年度
- 研究担当者
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小原 実広 ( 生物資源・利用領域 )
尹 棟敬 ( 東北大学 )
石山 敬貴 ( 東北大学 )
ORCID ID0000-0001-9259-1271科研費研究者番号: 70360493牧野 周 ( 東北大学 )
科研費研究者番号: 70181617 - ほか
- 発表論文等
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Yoon et al. (2022) Plant Direct 6(7): e417.https://doi.org/10.1002/pld3.417
- 日本語PDF
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2022_B02_ja.pdf708.27 KB
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2022_B02_en.pdf526.77 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。