イネの根において通気組織形成は窒素欠乏によって誘導される
イネの根において、細胞の崩壊による通気組織の形成は窒素栄養の欠乏によって誘導される。酸素欠乏による誘導的通気組織の形成とは異なり、窒素欠乏による誘導的通気組織は根の基部から形成される。イネの根の通気組織は、自発的形成、酸素欠乏による誘導的形成に加え、窒素欠乏による誘導的形成の少なくとも3種の形成機構が存在している。異なる機構で形成される通気組織を調査することで、イネの根の通気組織形成に関わる遺伝子群の機能解明が期待できる。
背景・ねらい
作物の根の通気組織は、地上部から根端への酸素の供給を担っており、湛水耐性に重要な組織であることが考えられている。湛水耐性が弱い畑作物では、自発的通気組織はほとんど形成されないが、栄養欠乏や酸素欠乏などに応じて誘導的通気組織は形成される。一方、湛水耐性が強いイネでは、酸素欠乏などの環境要因に応じた誘導的通気組織の形成に加え、自発的通気組織が形成されるため、通気組織形成機構がより複雑と考えられている。特に、土壌で最も不足しやすい栄養である窒素の濃度に応じた誘導的通気組織は、根で消費されるエネルギー消費の抑制に効果的であると考えられるが、窒素条件が形成機構に及ぼす影響は不明である。窒素濃度と誘導的通気組織の形成機構との関係を明らかにすることにより、イネの通気組織形成機構の解明、およびその形成を制御する遺伝子の同定が期待される。
成果の内容・特徴
- pHを厳密に制御した水耕栽培方法を用いることにより、pHの低下によって引き起こされる生長阻害を解消させることができる(図1)。
- イネの根全体においての通気組織は窒素欠乏により誘導的に形成される(図2)。
- イネの種子根において、酸素欠乏による誘導的通気組織は根の先端から形成されるのに対し、窒素欠乏による誘導的通気組織は根の基部から形成される(図3)。
- イネの根の通気組織は、自発的形成、酸素欠乏による誘導的形成に加え、窒素欠乏による誘導的形成の少なくとも3種の形成機構が存在している(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、自発的、窒素欠乏および酸素欠乏による誘導的通気組織形成に関連する遺伝子の単離・同定に活用できる。
- 本成果は、日本型イネ2品種、日印交雑品種1品種、インド型イネ1品種においても確認されている。
- 自発的形成に関与する遺伝子は、遺伝子組換え技術を用いた畑作物への湛水耐性の付与への活用が期待できる。
具体的データ
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図1 水耕液のpH変化(左)と植物体への生長阻害の解消(右)
●は本研究、○は従来法
**は、有意水準1%を示す。 -
図2 窒素欠乏による根全体の通気組織の形成程度を表す空隙率の増加
播種後10日のイネの根を用いている。
**は、有意水準1%を示す。 -
図3 播種後6日のイネの種子根の基部と先端付近における自発的および誘導的通気組織の形成
赤で示した皮層細胞が崩壊し、黄色で示した通気組織が形成される。対照である窒素、酸素十分条件では自発的通気組織が観察される。自発的通気組織に加え、窒素欠乏では基部から、および酸素欠乏では先端から、それぞれの誘導的通気組織が観察される。バーは100 µmを示す。
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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研究A
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 畑作安定供給
受託 » 生研センターイノベーション創出基礎的研究推進事業
- 研究期間
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FY 2013 (FY 2011-FY 2015)
- 研究担当者
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小原 実広 ( 生物資源・利用領域 )
安彦 友美 ( 生物資源・利用領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Abiko,T. and Obara, M. (2014) Plant Science, 215-216: 76-83
- 日本語PDF
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2013_B02_A3_ja.pdf712.42 KB
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- English PDF
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- ポスターPDF
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