火山の影響を受けた農地土壌の有機炭素は活性アルミニウムによって安定化される
熱帯湿潤地域において火山の影響を受けた土壌では、有機炭素含量が粘土+シルト含量ではなく、酸性シュウ酸可溶性アルミニウム(活性Al)含量に規定される。また、70年以上長期連続耕作が行われている農地でも、活性Alによって安定化された土壌中の有機炭素含量は、二次林・屋敷林と変わらない。今後、火山の影響を受けた農地土壌で炭素の長期大量貯留を実現するためには、活性Alで安定化される有機炭素を増やす技術の開発が重要である。
背景・ねらい
気候変動の緩和と肥沃度の向上のため、農地土壌への炭素貯留が強く求められている。特に熱帯湿潤地域では、高い気温と土壌水分量によって土壌有機物の減耗が激しいことから、農地土壌に効果的に炭素を貯留する農地管理技術の開発が急務となっている。そのためには、まず土壌有機炭素の貯留に関わる土壌要因を把握することが不可欠である。
これまでの研究では、熱帯地域での土壌有機炭素の貯留には、粘土+シルト含量が重要な要因であるとされてきたが、近年酸性シュウ酸可溶性アルミニウム(活性Al)による土壌有機物の安定化*の寄与も大きいことが明らかにされた。ここで、活性Alは土壌中の有機-Al複合体および非晶質粘土**の量(いずれも植物には無害)を反映する指標で、火山砕屑物の風化の過程で多く生成される。しかし、熱帯地域では、風化の進んだ活性Al含量が低い土壌を対象とした研究が多く、また異なる土地利用における活性Al含量と土壌有機炭素含量の関係は十分に明らかにされていない。
そこで本研究では、熱帯湿潤地域のフィリピン共和国西ネグロス州において、火山の影響が異なる土壌を、70年以上の長期連続耕作が行われているサトウキビ畑、二次林、屋敷林から採取し(図1)、粘土+シルト含量および活性Al含量の双方が土壌有機炭素含量に与える影響を評価する。
*土壌有機物の安定化:土壌微生物による分解を受け難くなること。
**非晶質粘土:結晶性の低い粘土の総称
成果の内容・特徴
- 土地利用にかかわらず、土壌有機炭素含量は、活性Al含量と高い正の相関を示すが、粘土+シルト含量との間に正の相関は認められない(図2)。このことは、土壌有機炭素含量が粘土+シルト含量ではなく、粘土の種類とその量に強く影響を受けることを示す。
- 活性Al含量と土壌有機炭素含量との回帰直線の切片には、サトウキビ畑とその他の土地利用(二次林+屋敷林)間で有意差が認められるが、傾きには土地利用間で有意差が認められない(図3)。これは、サトウキビ畑では、耕地化により粒子状有機物***に由来する土壌微生物に比較的分解されやすい有機炭素は減少するものの、活性Alで安定化されている有機炭素は減少しないことを示唆している。
***粒子状有機物:土壌有機物のうち、落葉、枯死根、土壌動物の死骸などを起源とする粗大な有機物。
成果の活用面・留意点
- 土壌有機物の減耗が激しい熱帯湿潤地域であっても、火山の影響を受けている農地では、活性Alで安定化される土壌有機炭素を増やす技術を開発することで、今後炭素の長期大量貯留を実現できる可能性がある。
- 上記の技術開発には、活性Alで安定化される土壌有機炭素の変化量に各種要因(土壌中の活性Al含量とその炭素飽和度、施用される有機質資材の化学的な質や量など)が与える影響を評価し、土壌中の活性Al含量とその状態に合った最適な有機質資材の種類と量を解明する必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 気候変動総合
- 研究期間
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2020~2024年度
- 研究担当者
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荒井 見和 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-5377-7820科研費研究者番号: 20817217伊ヶ崎 健大 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0001-5460-8570科研費研究者番号: 70582021安西 俊彦 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
Celestial Perez Virgie ( Sugar Regulatory Administration )
Tumbay Villaflor Jayson ( Sugar Regulatory Administration )
Santillana Salimo Ignacio ( Sugar Regulatory Administration )
和穎 朗太 ( 農研機構 農業環境変動研究センター )
ORCID ID0000-0003-3890-8025科研費研究者番号: 80456748 - ほか
- 発表論文等
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Arai et al. (2025) Soil Science and Plant Nutrition.https://doi.org/10.1080/00380768.2024.2415455
- 日本語PDF
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2024_A03_ja.pdf2.81 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。