量的遺伝子座MP3の導入は養分欠乏によるイネの穂数不足を緩和する

要約

サブサハラアフリカにみられる養分欠乏土壌では、イネの分げつ発生の抑制に伴う穂数不足が収量制限要因の一つとなっている。日本型品種コシヒカリからインド型多収品種タカナリに導入した量的遺伝子座MP3は、マダガスカルの2.0~4.1 t ha-1の低収量環境において、分げつ発生を促進し、穂数および籾数を増加させることができる。

背景・ねらい

窒素やリンなどの養分欠乏土壌が広く分布するサブサハラアフリカでは、分げつ発生の抑制に伴う穂数不足がイネの低収量要因の一つとなっている。遺伝的改良により養分欠乏土壌においても分げつ発生を促進させることができれば、こうした環境でのイネの生産性向上に繋がることが期待できる。日本型品種コシヒカリから見出され、インド型多収品種タカナリに導入された量的遺伝子座MP3 (MORE PANICLES 3)は、7 t ha-1以上の多収環境において、タカナリの一穂籾数を維持しつつ穂数を増加させる効果を持つことが分かっている(Takai et al. 2014)。そのため、MP3はサブサハラアフリカの収量性の低い養分欠乏土壌で生産性を改善できる可能性がある。本研究では、マダガスカルの養分欠乏圃場を対象に、MP3がイネの分げつ数、穂数、籾数、および収量に及ぼす効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. マダガスカルのリン欠乏土壌を用いたポット試験において、タカナリにコシヒカリ由来の量的遺伝子座MP3を導入した準同質遺伝子系統(NIL-MP3)ではタカナリに比べて、リン施肥量に関わらず分げつ数が有意に多くなる(図1)。
  2. 地点、年次、および施肥水準の違いにより収量水準が2.0~4.1 t ha-1となるマダガスカルの12の栽培環境において、NIL-MP3ではタカナリに比べて、穂数は平均19%、籾数は平均12%有意に多くなる(図2)。ただし、収量水準が1.3 t ha-1となる極低収量環境ではその効果はみられない。

成果の活用面・留意点

  1. MP3はマダガスカルのリン欠乏土壌で分げつ数を増加させる効果を有しており、同様の生産環境および収量水準にあるサブサハラアフリカ地域でのイネの穂数不足を緩和することが期待される。
  2. 収量水準が1.3 t ha-1の極低収量環境では、MP3は穂数を増加させる効果を発揮できないため、施肥等の栽培管理とMP3の組合せが必要となる。
  3. MP3の増収効果については、サブサハラアフリカの環境に適応した現地主力品種にMP3を導入して、今後検証する。

具体的データ

  1. 図1 養分欠乏土壌を用いたリン施用ポット試験でのタカナリとNIL-MP3の分げつ数の推移
    図1 養分欠乏土壌を用いたリン施用ポット試験でのタカナリとNIL-MP3の分げつ数の推移

    マダガスカルのリン欠乏土壌をポットに充填し、異なるリン施肥量で栽培。**, * は1%、5%水準で有意。 

     

  2. 図2 地点、年次、施肥条件の異なるマダガスカルの12の栽培環境におけるタカナリとNIL-MP3の穂数(A)と籾数(B)の比較
    図2 地点、年次、施肥条件の異なるマダガスカルの12の栽培環境におけるタカナリとNIL-MP3の穂数(A)と籾数(B)の比較

    収量水準は各栽培環境におけるタカナリとNIL-MP3間の籾収量の平均値。***は0.1%水準で有意。 

     

Affiliation

国際農研 生物資源・利用領域

分類

研究

プログラム名

農産物安定生産

予算区分

受託 » JST/JICA SATREPS » 肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上

研究課題

肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上

研究期間

2020年度(2017~2021年度)

研究担当者

髙井 俊之 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 40547725
見える化ID: 1769

辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 20588511

浅井 英利 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 30599064

西垣 智弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 80795013

石崎 琢磨 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 30442718
見える化ID: 001791

阪田 光和 ( 高知大学 )

Rakotoarisoa Njato Mickaël ( マダガスカル国立農村開発応用研究センター )

ほか
発表論文等

Takai T et al. (2021) Crop Science, 61(1):519-528
https://doi.org/10.1002/csc2.20344

日本語PDF

2020_B01_A4_ja.pdf290.03 KB

2020_B01_A3_ja.pdf290.92 KB

English PDF

2020_B01_A4_en.pdf242.99 KB

2020_B01_A3_en.pdf245.93 KB

ポスターPDF

2020_B01_poster.pdf220.09 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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