土–石膏混合クラストで種子の出芽能力を簡易に評価
石膏と土の混合資材を用いることで、土壌クラストを任意の硬度で均一に再現することができる。この手法をダイズ遺伝資源集団に用いることで、クラスト生成条件下において出芽能力が優れる系統・品種を簡便、迅速かつ低コストに選抜することができる。この手法はダイズ以外にも幅広く応用できるため、様々な作物遺伝資源においてクラスト条件下での出芽能力に優れる系統選抜が進むと期待される。
背景・ねらい
畑が裸地状態の際に降雨後の地表面に形成される土壌クラスト(緻密で硬い薄層)は、種子の出芽を物理的に阻害し、株立ち数を減らすことから、面積当たりの収量減少や再播種のためのコスト増加など、栽培上の問題となっている。クラスト条件で安定して出芽する品種が必要とされているが、自然条件ではクラストが均一に形成されないうえ、クラスト硬度の調整が困難である。
これまで、均一なクラストを人工的に再現する場合、対象の畑条件で採取した土壌に対して人工降雨装置を用いる方法がとられてきた。しかし、土壌採取の手間に加えて人工降雨装置が高価であることから簡便であるとはいえず、多数の遺伝資源を評価するのに適していない。このため、既往研究では十分な数の遺伝資源評価を行うことができず、品種育成が遅れる原因となっている。
本研究では、入手が容易で安価な石膏を土壌に混合した資材を用いることで均一な土壌クラストを再現し、クラストに対する出芽能力を効率的に評価する手法を開発する。
成果の内容・特徴
- 目的の硬度に応じて市販の石膏を20~40%程度の割合で土壌に混合し、ペーパーポットに播いた種子を均一に覆う(図1)。ペーパーポットには保水力の高い土(水田土壌)を用い、種子は予備発芽させることで均一な条件で再現性の高い評価ができる。
- 土―石膏混合資材は時間経過とともに硬度が増す。温度30℃、湿度50%の条件で処理開始からおよそ100時間後に目的の硬度に達するように混合比を調整する(図2)。西アフリカで優占する土壌を想定した場合、100時間後に混合比20%で実際の土壌クラストに近い硬度 (1.57 MPa) が得られる。
- 特別な装置を必要とせず、低コストで実施可能であるため、反復を伴う多系統のスクリーニングに適している(図3)。
成果の活用面・留意点
- 対象作物に適したサイズのペーパーポットを用いることでダイズ以外の作物にも適用可能である。また、ペーパーポットが入手できない場合、市販のトレイなどでも代用可能である。
- 使用する土の性質の違いや処理開始後の温湿度条件によって硬化速度が変化するため、試験条件における土―石膏混合資材の硬化速度をあらかじめ確認する必要がある。
- 出芽速度などの植物特性や目的のクラスト硬度に応じて石膏の乾燥時間(本研究では100時間後に設定)は任意に設定できる。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ畑作システム
交付金 » 第5期 » 理事長インセンティブ
- 研究期間
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2021~2022年度
- 研究担当者
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中川 アンドレッサ ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0009-0006-8306-3884科研費研究者番号: 70938589伊ヶ崎 健大 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0001-5460-8570科研費研究者番号: 70582021井関 洸太朗 ( 生物資源・利用領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Nakagawa et al. (2024) Plant Production Science 27(4): 265−271.https://doi.org/10.1080/1343943X.2024.2392296
- 日本語PDF
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2024_B09_ja.pdf1.21 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。