イネ種子のプライミングは発芽・出芽の速度および斉一性を向上する
イネ種子のプライミング処理は発芽および出芽時間を短縮させるとともに苗立ちの斉一性を改善するため、直播技術開発における苗立ち率の向上に活用できる。
背景・ねらい
アフリカの天水低湿地における水稲直播栽培技術の開発において、初期成育とりわけ出芽速度と苗立ち率の向上は安定生産維持のために極めて重要である。不良条件下での出芽のばらつきによる初期成長速度の個体間差異は、イネの受光態勢や乾物生産の低下、また収量へ影響を及ぼす。特に天水低湿地においては、播種時の土壌水分を制御することが難しいため、幅広い土壌水分条件下で苗立ちを良好にする技術の確立が求められる。そこで、種籾を水に一定期間浸漬・乾燥し、発芽過程を人工的に進める、いわゆるプライミング処理による発芽・出芽促進効果を検討する。本技術の天水低湿地への応用が可能となれば、安定したコメ生産体系の確立と拡大に貢献することが期待できる。
成果の内容・特徴
- プライミングの効果は、水温20°Cでは24時間と48時間浸漬、水温30°Cでは12時間浸漬のプライミング処理で顕著である。アフリカの環境に比較的近い水温30°C12時間浸漬で、無処理区に比較すると発芽が約18時間短縮する(表1)。
- 閉鎖系で設定した3~20%の土壌含水率において、無処理区に比べてプライミング区で発芽後の鞘葉の伸長速度が1.2倍以上向上する(図1)。このことは、プライミングによって発芽の高速化に苗成長速度の上昇が付加されることで出芽速度が向上・安定化することを示している。
- 圃場容水量(土壌が吸収できる水分の重量%)が22.2%の砂質土壌では、3~20%の範囲の土壌含水率において、プライミングの効果が認められる。特に、乾燥状態にある土壌含水率8%で最も高いプライミングによる出芽時間短縮効果を示すとともに、より厳しい乾燥条件においてもプライミングは出芽時間を短縮する(図2)。
- 出芽の斉一性は土壌含水率6%および20%を除き、無処理区に比べプライミング区で向上する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 現場で特別な施設を必要とせずに、種もみの簡易的な作業(吸水と乾燥)によって、プライミングの処理を施すことができる。
- アフリカの天水低湿地において高速発芽と出芽が得られる。
- 乾燥種子は芽出しと異なり、保存が利く。
- プライミング処理中の長時間の浸種は発芽を誘起するため、浸種時間を遵守する。
具体的データ
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表1 プライミングの種々の処理温度・処理時間における発芽時間(h)
発芽率が50%に到達するに要した時間を発芽時間とした。表中の - は発芽率が50%未満であったことを示す。
平均値±標準誤差。
**、*は無処理との間に1%、5%水準で有意差あり(T-検定)。
各温度・時間で浸食後、25°Cで24時間(浸食前の種子量まで)乾燥させた。
発芽検定は30°C低温暗条件で行われた。 -
図1 鞘葉伸長速度に対するプライミングの効果
*は無処理との間に5%水準で有意差あり(T-検定)。 -
図2 プライミングによる出芽時間の短縮効果
無処理:○,y = 0.066x2 -1.385x + 87.814, r=0.395
プライミング:▲y = 0.237x2 -4.630x + 82.442, r=0.957** -
図3 出芽斉一性値(右式)に対するプライミングの効果
※低い値ほど出芽が斉一であることを示す。 -
発芽斉一性値(GU)は平均発芽時間の標準偏差を意味し,その計算式は
で示される。:平均出芽時間,D:播種後時間,n:D時の発芽数
- Affiliation
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国際農研 生産環境・畜産領域
- 分類
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研究B
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » アフリカ稲作振興
- 研究期間
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2013年度(2011-2015年度)
- 研究担当者
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松嶋 賢一 ( 生産環境・畜産領域 )
坂上 潤一 ( 生産環境・畜産領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Matsushima, K. et al. (2013) American Journal of Plant Sciences, 4: 1584-1593
- 日本語PDF
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- English PDF
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- ポスターPDF
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