熱帯樹木チークの葉のクロロフィル量は成長速度の指標になる
チークは熱帯林の重要な木材資源で市場価値が高く安定した供給が求められるが、同一の人工林内でも個体間で成長の差が大きい。チークの葉のサイズや窒素量などの特性は同じ林内の個体間で差が大きく見た目も異なるが、葉のクロロフィル量は個体の直径や樹高成長速度と相関がみられ、成長の指標となる。
背景・ねらい
チーク(Tectona grandis)は、タイやインドなど熱帯アジア原産の樹木で、材質に優れ成長も早いため、アジアだけでなく中南米やアフリカ熱帯でも植林され、高級家具材や内装材としての需要が高い。熱帯アジアの天然林ではチーク原木の乱伐が進んだため資源が枯渇し、人工林からの木材供給が主流になっているが、個体間での成長のばらつきが大きく、将来の収穫量予測や植栽不適箇所を判定するための簡便な指標が求められている。
光合成器官である葉のサイズや色素量といった様々な特性は光合成を左右するため、樹木の成長量と関係している可能性が高い。例えば、クロロフィル(葉緑素)は、葉に当たった光のエネルギーを取り込む色素であり、これが不足すると光合成が低下し、成長が制限される。個体間での成長の違いを、葉の特性から簡便に推定できれば、収穫量の予測精度の向上や、生育不良箇所の迅速な特定とその要因解明につながる。しかし、樹種によって成長に関係する葉の特性が異なることが報告されているため、樹種ごとに調べる必要があるが、チークでは知見がほとんどない。
本研究では、チークの直径・樹高成長速度と、光合成に関連する葉の特性(個葉面積、葉面積当たりの葉重(LMA)、窒素量、クロロフィル量)との関係について検討する。
成果の内容・特徴
- 植栽後14年から46年経過したマレーシアの4つの州の人工林で、チークの樹高と直径を測定する。チークは同じ人工林内でも個体間で直径や樹高は大きく異なる(図1)。
- 樹冠上部の陽葉を採取し、個葉面積やSPAD値*で指標化したクロロフィル量(以降クロロフィル量と表記)、窒素量、LMAを比較する。葉の特性は同じ林内の個体間で差が大きく、見た目でも異なる(図2)。
- 葉のクロロフィル量は、直径や樹高成長速度と正の相関を示すことから、クロロフィルが多い個体は成長速度も高いことが示唆される(図3)。
- クロロフィル量と異なり、葉の窒素量や個葉面積など他の葉の特性と成長速度には相関がほとんどみられない。さらに重回帰分析で、全林分の葉の特性と成長の関係を解析すると、クロロフィル量が最も樹高と直径の成長に影響を与えている(表1)。
*SPAD値:光学機器を用いて葉の分光特性からクロロフィル量を測定した指標値。
成果の活用面・留意点
- チークの葉のクロロフィル量を成長の指標とすることで、ドローンや人工衛星などによるリモートセンシング技術を使った人工林の広域的な木材収穫量の予測精度の向上や、生育不良箇所の特定に利用できる。
- 本成果はマレーシアの4つの州のチーク人工林を対象としたが、気候や土壌特性が大きく異なるアフリカや中南米などのチーク人工林、遺伝的に大きく異なるチークの品種や苗木の段階でも同様の結果が得られるかの確認を行うことで、林木育種などにも利用できる知見となる。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 環境適応型林業
科研費 » 基盤研究C
- 科研費
- 研究期間
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2021~2024年度
- 研究担当者
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田中 憲蔵 ( 林業領域 )
ORCID ID0000-0002-4856-7204科研費研究者番号: 30414486米田 令仁 ( 森林研究・整備機構 森林総合研究所 )
科研費研究者番号: 00435588アザニ モハマドアリアス ( マレーシアプトラ大学 )
- ほか
- 発表論文等
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Kenzo et al. (2024) Tropics. 33: 73-85.https://doi.org/10.3759/tropics.MS23-06
- 日本語PDF
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2024_A06_ja.pdf971.82 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。