サトウキビ初期生育促進のための選抜指標として重要な比葉面積

要約

葉面積の拡大が緩慢なサトウキビでは、長期間に及ぶ初期生育が収量を制限しており、比葉面積が小さいことがその原因となっている。比葉面積には遺伝的変異がみられることから、初期生育の速い品種の育成に比葉面積および葉の長さや厚さなどの関連形質を選抜指標として利用できる。

背景・ねらい

   サトウキビは初期生育が緩慢で畦間が葉身によって覆われるまでに長期間を要し、この間に多くの太陽エネルギーを失っている。このため、個葉の光合成能力が高く、生育旺盛期には高い群落生長速度を示すにも関わらず、栽培期間を通じた群落生長速度は低く、栽培期間に比して低い収量水準に留まっている。そこで、初期生育が緩慢な要因を個体の生長から探り、初期生育期間を短縮する方法について検討した。

成果の内容・特徴

  1. 生育45 日後におけるソルガムの乾物重はサトウキビの5 倍に達する(図1)。ソルガムの旺盛な生長は全葉面積の迅速な拡大による。乾物あたりの生長速度(相対生長率)は、葉身乾物あたりの葉面積(比葉面積)と正の相関関係にあることから、ソルガムの全葉面積の迅速な拡大は、光合成の速度(純同化率)や乾物に占める葉身の割合が高いためではなく、比葉面積が大きいことによるといえる(図2)。従って、比葉面積が小さいことがサトウキビの初期生育が緩慢な大きな要因といえる。
  2. サトウキビ遺伝資源では、比葉面積は葉長(r=-0.54)、葉厚(r=-0.35)、葉身乾物重(r=-0.55)および葉身乾物率(r=-0.33)と負の相関関係を示し(n=94)、短く薄い葉身で比葉面積が大きい傾向を示す。また、出葉速度は比葉面積と正の相関(r=0.45, n=88)を示すことから、比葉面積の大きな品種では、葉身の迅速な展開によって大きな葉面積の確保が期待できる。
  3. 比葉面積には品種間差異がみられ、比葉面積の大きな栽培品種やSaccharum sinense, Erianthus 属植物は品種改良に活用できる(図3)。
  4. 初期生育が旺盛なことで知られる栽培品種に比べ、比葉面積の大きなS. sinense 種品種の初期生育はさらに旺盛である(図4)。

成果の活用面・留意点

  1. 比葉面積および関連形質を指標とした育種母材の選定と後代の選抜によって初期生育の旺盛な品種の育成が期待できる。
  2. 比葉面積が生育時期や環境要因によって変動することに留意する。
  3. 初期生長に有利な葉身形態は、生育後半の群落光合成に不利な場合があることに留意する。

具体的データ

  1.  

    図1 サトウキビとソルガムの乾物重、比葉面積および純同化率の比較(生育48日後)
  2.  

    図2 比葉面積と相対成長率の関係
  3.  

    図3 サトウキビ遺伝資源にみられる比葉面積の変異
  4.  

    図4 サトウキビ品種の比葉面積、葉面積および乾物重の比較(生育84日後)
Affiliation

国際農研 沖縄支所

分類

研究

予算区分
経常 国際農業〔栄養繁殖性作物〕 法人プロ〔キビ特性〕
研究課題

さとうきびの早期高糖性発現機構の解明

栄養繁殖性熱帯作物遺伝資源の特性評価と長期保存法の確立

サトウキビの効率的な形質転換体作出技術の開発

研究期間

2001 年度(1991 ~ 2001 年度)

研究担当者

寺内 方克 ( 沖縄支所 )

松岡 ( 農林水産省農林水産技術会議事務局 )

中川 ( 農研機構 畜産草地研究所 )

中野 ( 農研機構 北海道農業研究センター )

ほか
発表論文等

寺内方克, 中川仁, 松岡誠, 中野寛, 杉本明. (1999): スイートソルガムとの比較によるサトウキビ初期生長特性の解析. 日作紀, 68: 414-418.

寺内方克, 松岡誠 (2000): サトウキビ初期生長特性改善のための形態形質の解析. 日作紀, 69: 286-292.

日本語PDF

2001_23_A3_ja.pdf990.35 KB

English PDF

2001_20_A4_en.pdf96.39 KB

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