東南アジア熱帯雨林で重要な林業樹種におけるゲノム選抜育種導入の可能性

要約

東南アジア熱帯雨林の重要な林業樹種(フタバガキ科樹種)を対象に遺伝子連関解析を行い、ゲノム推定モデルを構築することで、形質の評価に長期間を要していた林木の遺伝的な改良期間を短縮できる。とくに、成長に関して、連関するDNA多型と高いゲノム遺伝率が検出されたことから、成長に関するゲノム選抜が有効であることが示唆される。

背景・ねらい

東南アジアの熱帯雨林では、一定の基準に達した樹木だけを選んで択伐したあと、森林が自然回復した数十年後に次の収穫を期待する生産システムが一般的であったが、多くの地域では十分に回復が進まず、生産水準の低下が問題となっている。東南アジアで最も広大な熱帯雨林を有するインドネシアでは、伐採後の人工的な植栽による生産力の回復が求められているが、熱帯雨林産の林業樹種で種苗の遺伝的改良が行われた例はなく、遺伝的な改良を行った種苗を用いた植栽が可能になれば、熱帯雨林の回復、生産性の向上に大きく寄与する可能性がある。
近年、次世代シークエンサーの進歩によって、多数の個体からゲノムを広く網羅するDNA多型の検出が可能となり、ゲノム上のDNA多型情報から表現型を推定し、優良個体を選抜するゲノム選抜育種が可能となった。従来、その長寿命性のために表現型の評価に長期間を要していた林木において、実生の段階で将来の表現型をDNA多型情報から予測し、選抜を行うことは、育種サイクルの大幅な短縮につながる。そこで、優良な種苗による東南アジア熱帯雨林の森林再生、生産力の増強を効果的に行うために、東南アジア熱帯雨林の優占樹種であり、林業を含む多くの生態系サービスを提供するフタバガキ科樹種を対象に、ゲノム選抜育種の可能性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. 中央カリマンタンの天然林コンセッション企業内に設置されたフタバガキ科林業樹種の一つであるShorea platycladosの次代検定林において、77母樹の自然交配によって得られた356個体から、5,900遺伝子座とゲノム上の長い物理距離にわたる連鎖不平衡を検出したことから、本次代検定林は遺伝子連関解析やゲノム推定に適した集団であることがわかる(図1)。
  2. ゲノム連関解析を行ったところ、間伐前の樹高(8年生)では、1遺伝子座が有意であったが、間伐後の樹高(11年生)、幹の直径成長や樹形、材密度では有意な遺伝子座は検出されず、これらの形質は多数の効果の弱い遺伝子によって制御されていることが示唆される(図2)。
  3. ゲノム連関解析結果による遺伝子座の選抜は遺伝子型によって説明できる表現型の分散(ゲノム遺伝率)を向上させ(表1)、成長に関わる形質のゲノム遺伝率は樹形や材質よりも高いことから(表1)、成長の早い個体選抜・種苗生産を行う際に、とくに効果を発揮する。

成果の活用面・留意点

  1. 開発されたゲノム推定モデルを用いて、特に成長に関わる形質について実生の選抜を行うことで、育種サイクルの大幅な短縮につながる(図1)。
  2. 今回測定した形質は多数の効果の弱い遺伝子によって制御されていることが示唆されており、マーカー選抜育種には適さない。
  3. 深層学習の活用、解析個体数や遺伝子座の増加がゲノム推定モデルの精度向上に有効である。

具体的データ

  1. 図1 本研究に用いた次代検定林の遺伝的性質とゲノム選抜育種を用いた場合の工程

    従来の方法では次代検定林での検証に約20年要するが、ゲノム選抜育種ではこの工程をゲノム予測モデルによって短縮することができるため、育種サイクルの大幅な短縮が見込める。

     

  2. 図2 間伐後の樹高に対する各遺伝子座との連関を表すマンハッタンプロット​​​​​​

    計測した全ての表現型についてゲノム連関解析を行ったが、ほとんどの遺伝マーカーでは有意な連関は認められず、間伐前の樹高のみで有意な連関が認められた。 

     

  3. 表1 遺伝子座から算出したゲノム遺伝率

    -log10P値が0.5(図2の赤線)以上を示した選抜遺伝子座では、成長に関わる形質(樹高や幹直径)のゲノム遺伝率が向上することから、これらに対応する効果の弱い遺伝子が多数存在することが示唆された。

Affiliation

国際農研 林業領域

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

高付加価値化

予算区分

交付金 » 価値化林業

研究期間

2020年度(2016~2020年度)

研究担当者

尚樹 ( 林業領域 )

科研費研究者番号: 90343798

諏訪 錬平 ( 林業領域 )

Sawitri ( ガジャマダ大学 )

Na'iem Mohammad ( ガジャマダ大学 )

Widiyatno ( ガジャマダ大学 )

Indrioko Sapto ( ガジャマダ大学 )

内山 憲太郎 ( 森林総合研究所 )

津村 義彦 ( 筑波大学 )

科研費研究者番号: 20353774

ほか
発表論文等

Sawitri et al. (2020) Forests, 11 (2):239
https://doi.org/10.3390/f11020239

日本語PDF

2020_C06_A4_ja.pdf837.65 KB

2020_C06_A3_ja.pdf785.12 KB

English PDF

2020_C06_A4_en.pdf835 KB

2020_C06_A3_en.pdf801.08 KB

ポスターPDF

2020_C06_poster.pdf536.86 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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