ゲノム予測モデルを用いた亜鉛強化米育種のための有望系統の同定

関連プロジェクト
アフリカ稲作システム
要約

マダガスカルの農家圃場での観測値と一塩基多型情報をもとに構築されたゲノム予測モデルにより、国際稲研究所のジーンバンクに保存された3,024系統の玄米の亜鉛含量は系統間で17.1~40.2 mg kg-1の変異を持つと推定される。同モデルで3,024系統から選抜されたアウス種IRIS313-9368はマダガスカルの多様な生産圃場で安定して高い亜鉛含量を示すことから、亜鉛強化米育種への利用が期待できる。

背景・ねらい

世界人口の約17%が十分な量の亜鉛を摂取できていない亜鉛欠乏症にあるとされる。この問題はサブサハラアフリカ地域において最も深刻であり、亜鉛欠乏が子どもの発育阻害の主要因の一つになっている。作物の可食部における亜鉛含量の向上は、栄養摂取源の多くを自家生産に依存し、多様な食品への市場アクセスが制限される地域での亜鉛欠乏症の解決に有効な手段と考えられている。
亜鉛含量の高い作物を育種開発するためには、世界中に保存されている膨大な遺伝資源の中から可食部の亜鉛含量が高い品種を育種素材として選抜利用する必要がある。選抜の効率化において、労力のかかる圃場での観測を経ずに、一塩基多型情報*を用いてその値を推定するゲノム予測**の活用が期待できる。一方で、可食部の亜鉛含量は、遺伝的要因のみならず、栽培環境によっても大きく変動することから、ターゲットとする地域で観測されたデータにもとづくモデルを利用することが望ましい。
そこで、本研究では、一塩基多型情報が公開された国際稲研究所ジーンバンクの3,024系統を用いて、マダガスカルの農家圃場で得られた観測値から構築した玄米亜鉛含量の推定モデルの精度を検証し、同モデルから対象地域でのコメの亜鉛含量向上に利用できる育種素材を選抜することを目的とする。

*一塩基多型情報:A,T,G,Cの4文字により構成されるDNA配列情報の系統間差異のうち、挿入や欠損を伴わず一文字の置き換えにより発生するものをゲノム全体で網羅した情報

**ゲノム予測:教師データとゲノム全体の遺伝子情報を用いることにより、実験を行うことなく各系統の形質値を予測すること

 

成果の内容・特徴

  1. 253系統の教師データで構築されたゲノム予測モデルにより、国際稲研究所ジーンバンクに保存された3,024系統の玄米の亜鉛含量は17.1 mg kg-1から40.2 mg kg-1の変異をもつと推定される(図1)。
  2. イネの亜種別の亜鉛含量の平均推定値を比較すると、アウス種(30.3 mg kg-1)が最も高く、インディカ種(23.2 mg kg-1)やジャポニカ種(26.7 mg kg-1)に比べて13~31%大きい値をもつ(図1)。
  3. 同モデルを用いることで、一塩基多型情報のみで、未知系統(n=61)の亜鉛含量が決定係数R2=0.55の十分に高い精度で推定できる(図2)。
  4. 同モデルをもとに3,024系統の中で高亜鉛含量をもつ育種素材としてアウス種のIRIS313-9368が選抜される。マダガスカルの農家圃場5地点で観測された同系統の亜鉛含量の平均値(42.5 mg kg-1)は、熱帯の主要な多収品種であるIR64(21.7 mg kg-1)およびマダガスカルの主要な多収水稲品種X265(18.6 mg kg-1)に比べて極めて高い値をもつ(図3)。

 

成果の活用面・留意点

  1. 本研究で構築されたゲノム予測モデルおよび知見を用いることで、各地の栽培環境に適した亜鉛強化米育種を加速することができる。
  2. より多くのアウス種を教師データに含めることにより、モデル精度の向上と有望な育種素材の探索の効率化が期待できる。
  3. 教師データとした253系統のうちの21系統の分析から、精白米の亜鉛含量は玄米に比べて約18%低い値をもつと推定される。

 

具体的データ

  1.  

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

交付金

受託 » JST/JICA SATREPS

研究期間

2017~2022年度

研究担当者

田中 ファン ( 生産環境・畜産領域 )

Wissuwa Matthias ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 90442722

ラクトンドラマナナ ボラタンテリ ( マダガスカル国立農村開発応用研究センター )

田中 凌慧 ( 東京大学 )

スタングリス ジェームス ( フリンダース大学 )

グレニエル セシル ( フランス国際農業開発センター )

ほか
発表論文等

Rakotondramanana et al. (2022) Theoretical and Applied Genetics 135: 2265–2278.
https://doi.org/10.1007/s00122-022-04110-2

日本語PDF

2022_B08_ja.pdf752.38 KB

English PDF

2022_B08_en.pdf463.9 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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