アフリカにおけるサバクトビバッタの体温調節行動に基づく行動予測モデル

要約

アフリカで大発生するサバクトビバッタの群生相の幼虫は、日中、サハラ砂漠において集団移動する。幼虫は周囲の温度に応じた行動をとり、体温調節している。この体温と行動との関係を組み込んで開発したバッタ専用のモデルを用いると、気象情報から体温を推定し、行動が予測可能になる。

背景・ねらい

サバクトビバッタ(以下バッタ)を効率よく防除するためには、その時空間的分布パターンの解明が必要である。しかし、野外調査はほとんど行われておらず、変動する温度環境下におけるバッタの行動には不明な点が多い。これまでにバッタ成虫は温度依存的に逃避行動を変化させ、低温時には不活発になり逃避能力が低下することなどを明らかにした(平成30年度国際農林水産業研究成果情報B07「アフリカにおけるサバクトビバッタの時空間分布パターン」)。発生地であるモーリタニアのサハラ砂漠において、群生相の幼虫の行動と体温との関係を解明することにより、バッタ専用のモデルを開発し、バッタの体温を推定し、行動を予測することを目指す。

成果の内容・特徴

  1. 幼虫の群れは活発に集団移動する(図1a)。バッタの周辺温度が高い時は、太陽光に当たる体表面積を小さくし、熱い地表から体を離す等の背伸び行動をとり(図1b)、日陰や植物上に移動したりする行動をとる。周辺温度が低い時は、密集して日光浴行動等をとる(図1c & d)。
  2. 様々な行動を夜間の休息行動、集団日光浴、移動、採餌等12の項目に区別し、個別にサーモグラフィカメラを用いて体温を測定し、体温と行動との関係を明らかにする。夜間、バッタは植物上で休息している。日が昇った後、バッタの周辺温度が低い時(20〜40℃)は周辺よりも高い体温を維持し、高い時(40℃以上)は約40℃を維持するよう体温調節する(図2)。
  3. サーモグラフィカメラで明らかにしたバッタの体温と行動との関係(表1)を既存の生物物理学モデル(NicheMapR: http://bioforecasts.science.unimelb.edu.au/app_direct/ectotherm_ncep/)に組み込むことで、バッタ専用の行動予測モデルを開発できる。
  4. 既存のソフトウェアRNCEP packageを介してアメリカ国立環境予測センターが提供する気温、湿度、風速等の気象情報を取得し、NicheMapRを用いてバッタ周辺地点の気象と体温を推定できる。NicheMapRで予測されるバッタの行動のうち、クールダウン行動と採餌が予測される場合は集団日光浴をしている場合があるが、夜間の休息行動や集団日光浴が予測される場合は的中率が高い(図3)。

成果の活用面・留意点

  1. 現状では、殺虫剤の散布は、バッタが広範囲に分布し、活発に動く日中に行われているが、バッタが不活発な時間帯を特定し、集中的に農薬を散布することで、必要以上に農薬を使用しない、環境や健康に配慮した防除に結び付くことが期待される。
  2. 開発したモデルに特定の地域の気象情報を取り込むことによりバッタの行動予測が可能になる。それによりバッタの発生予察の精度が向上し、効率的な防除が可能になると期待される。
  3. 幼虫集団の一日の移動距離、方向を予測するために、行動についてさらに調査する必要がある。

具体的データ

  1. 図1 サバクトビバッタの群生相幼虫の行動

    a) 集団移動中のサバクトビバッタ群生相幼虫。 b) 高温時、太陽に顔を向け、太陽光に当たる体表面積を小さくし、背伸びをして熱い地表から体を離す「背伸び行動」。 c) 低温時の「集団日光浴」の可視画像。 d) c)のオレンジ色の枠のサーモグラフィ画像。右端のバーは温度を示す。

     

  2. 表1 サバクトビバッタの群生相幼虫の行動と体温との関係

    指標
    最高致死体温 50℃
    最低致死体温   1℃
    好適体温 40℃
    最高採餌体温 43℃
    最低採餌体温 25℃
    日光浴最低温度 15℃
    日光浴地点への移動時の最低体温 15℃

    野外調査により取集したモデルに活用するためのパラメータ。

     

  3. 図2 バッタ周辺の表面温度と体温との関係​​​​​​

    図中の直線は、バッタ周辺の表面(植物表面あるいは地面)の温度と体温が同じ場合を示す。クールダウン行動とは、日向の「背伸び行動」、および、日中、日陰や植物の上に移動した状態をいう。 

     

  4. 図3 開発したモデルから予測した行動の的中率

    全体として67.2%の的中率(305件のうち、夜間の休息行動37件、集団日光浴5件、クールダウン行動及び採餌163件の合計205件が的中)。 

所属

国際農研 生産環境・畜産領域

分類

研究

研究プロジェクト

国境を越えて発生する病害虫に対する防除技術の開発(病害虫防除)

プログラム名

農産物安定生産

予算区分

交付金 » 病害虫防除

研究期間

2020年度(2016~2020年度)

研究担当者

前野 浩太郎 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 70600112
見える化ID: 3484

Piou Cyril ( フランス国際農業開発センター )

Kearney Michel R ( メルボルン大学 )

Ould Mohamed Sid'Ahmed ( モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センター )

ほか
発表論文等

Maeno KO et al. (2021) Ecological Applications
https://doi.org/10.1002/eap.2310

日本語PDF

2020_B09_A4_ja.pdf634.78 KB

2020_B09_A3_ja.pdf537.47 KB

English PDF

2020_B09_A4_en.pdf486.39 KB

2020_B09_A3_en.pdf487.17 KB

ポスターPDF

2020_B09_poster.pdf353.78 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。