転写調節遺伝子を用いた環境ストレス耐性植物の開発
植物の乾燥や塩害、凍結等に対する耐性機構で働く遺伝子群を調節している遺伝子を突き止めた。この遺伝子を導入した植物では、これまでにない高いレベルの乾燥・塩・凍結耐性を示した。この技術は種々の植物に応用できると考えられ、地球規模の環境劣化に対応できる作物の開発への応用が期待できる。
背景・ねらい
今日の開発途上地域での爆発的な人口増加や地球レベルの環境劣化などにより、食料の安定的な供給は近い将来、人類にとって最も大きな課題になると考えられる。このため、乾燥地帯や寒冷地等の劣悪環境でも多くの収穫が望める作物の開発は、食料の安定供給に大きく貢献すると考えられる。現在、遺伝子組換え技術による病害虫や農薬に耐性を持つ作物は、すでに開発されている。しかし、劣悪な環境に耐える植物の開発では、植物の持つ環境ストレスに対する耐性機構が複雑なことから開発が遅れている。本研究では植物の持つ環境耐性機構を分子レベルで明らかにして、環境ストレス耐性植物の分子育種に役立てることを目的とする。
成果の内容・特徴
- 遺伝子研究が最も進んでいるシロイヌナズナを用いて、耐性機構で働いている50種以上の遺伝子を解析し、植物が乾燥状態になったときに遺伝子を働かせる調節機構が植物中に4種あることを明らかにした。
- その一つの調節機構は乾燥の他、塩分や低温にも応答するが、この機構で調節されている遺伝子発現を制御する転写因子の遺伝子(DREB1A)を単離した(図1)。
- この転写因子の遺伝子を植物中で強く発現するように、35Sプロモーターと結合してシロイヌナズナに導入した。得られた遺伝子導入植物は乾燥や凍結に対して強い耐性を示した。しかし、成長阻害が見られ、このままでは実用的な耐性植物ができないことが示された。
- そこで劣悪環境時に特異的に遺伝子の働きを調節するrd29AプロモーターにDREB1A遺伝子を結合してシロイヌナズナに導入すると、得られた遺伝子導入植物はこれまでにない高レベルの乾燥・塩・凍結耐性を示した(図2)。さらに、ほとんど成長阻害は見られず、種子の収量も正常だった。
成果の活用面・留意点
DREB1A遺伝子が転写因子として働く環境応答機構は、植物が共通に持っている環境変化に対する耐性機構と考えられる。このためDREB1A遺伝子とrd29Aプロモーターの組み合わせは、イネや小麦やトウモロコシ等の環境ストレス耐性作物の他、環境ストレスに強い樹木などの開発への応用も期待される。また、用いている遺伝子は、本来植物が持っている遺伝子であり、環境が悪化したときだけに働くように調節していることから、遺伝子組換え植物としての安全性も高い。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 生物資源部
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理化学研究所
- 分類
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研究
- 予算区分
- 生研機構基礎研究推進事業 経常
- 研究課題
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乾燥・塩ストレス耐性の分子機構の解明と分子育種への応用
- 研究期間
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平成11年(平成8~12年)
- 研究担当者
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篠崎 和子 ( 生物資源部 )
春日 美江 ( 生物資源部 )
劉 強 ( 生物資源部 )
SHINWARI Zabta Khan ( 生物資源部 )
篠崎 一雄 ( 理化学研究所 )
科研費研究者番号: 20124216 - ほか
- 発表論文等
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Q. Liu, M. Kasuga, Y. Sakuma, H. Abe, S. Miura, K. Yamaguchi-Shinozaki and K. Shinozaki (1998) Two transcription factors, DREB1 and DREB2, with an EREBP/AP2 DNA binding domain separate two cellular signal transduction pathways in drought- and low-temperature-responsive gene expression, respectively, in Arabidopsis. The Plant Cell 10, 1391-1406.
Z. K. Shinwari, K. Nakashima, S. Miura, M. Kasuga, M. Seki, K. Yamaguchi-Shinozaki and K. Shinozaki (1998) An Arabidpsis gene family encoding DRE/ CRT binding proteins involve in low-temperature-responsive gene expression. Biochem. Biophys. Res. Commun.250, 161-170.
M. Kasuga, Q. Liu, S. Miura, K. Yamaguchi-Shinozaki and K. Shinozaki (1999) Improving plant drought, salt, and freezing tolerance by gene transfer of a single stress-inducible transcription factor. Nature Biotechnology 17, 287-291.
- 日本語PDF
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