地球温暖化が野菜の栽培に与える影響を生産費に基づいて予測する
野菜は品目と品種が多様であり、植物生理の側面から温暖化の影響を予測することが難しい。そこで経済的な側面から影響予測を行う目的で、生産費と気温の関係を統計的に分析する。その結果、生産費と気温の関係には3つのパターンが存在し、影響予測が可能となる。
背景・ねらい
気候変動への適切な対応策を検討するためには、気候変動が与えうる影響を事前に予測することが望ましい。穀物への影響予測は、その成長過程を再現する作物モデルを使って行われることが多い。しかし野菜は品目と品種が多様であり、それらを網羅するような作物モデルの開発は難しい。そこで作物モデルに代替する予測手法を開発する目的で、日本各地の野菜生産費と栽培環境のデータセットを作成し、栽培期間の平均気温と生産費の関係を統計的に分析する。
成果の内容・特徴
- 統計分析の準備として、図1が示す仮説を設定する。これは生育適温から外れた環境では、ハウス栽培に代表されるような環境への適応策が必要となり、それがシンプルな露地栽培に比べて生産費を上昇させると考えられるためである。
- データセットから、正規確率プロット等で分析可能な品目を抽出した後、図1の仮説を回帰分析で検証する。その結果、決定係数が比較的高く曲線形状も仮説に沿う品目(図2)、決定係数は比較的高いが形状は仮説と異なる品目(図3)、そして決定係数が低い品目が確認される。それらをまとめ、図4の3つのパターンの補助仮説を導入した。
- 決定係数が比較的高い品目(図2、3)について、生産費を構成する費目ごとに回帰分析を行うと、肥料費、薬剤費、光熱動力費、種苗費、管理労働費に気温との関連が見られる。したがって、これらが適温から外れた環境で生産を維持するために必要な費目と考えられる。
- 仮説に沿う品目(図2)で、生産費が最小となる気温を確認すると、生育適温帯より低温側に位置する例がある。費目別のデータからその理由を検討すると、包装運搬費や調整労働費等、収穫後の品質保持対策に関係する費用が、生育適温下でも高い水準を示しており、生産費という観点からは、生育適温での栽培が最適とは限らないことが示唆される。
- 気候変動による気温変化が野菜生産に与える影響は、図4で示した生産費の曲線を特定化し、その曲線に沿ったコスト変化として把握できる。
成果の活用面・留意点
- コスト変化を経済モデルに受け渡せば、地域や国への影響の波及も予測でき、適応策の評価等にも応用できる。
- 本研究は日本のデータを利用しているが、手法は他の国・地域にも適用が可能である。
- 本研究は多くの野菜品目を分析対象とする必要性から、品種の違いを考慮せず、また栽培期間の平均気温のみを栽培環境を示す変数と仮定している。品種別の分析、あるいは気温以外の適切な変数の付加により、さらに適合度の高い曲線が推計されると考えられる。
- 生産費は品目別経営統計(農林水産省大臣官房統計部)、月平均気温は気象統計情報(気象庁)、生育適温は生井ら(2003)『新版農業の基礎』(農山漁村文化協会)に基づく。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 社会科学領域
- 分類
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研究B
- プログラム名
- 予算区分
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受託
受託 » 農林水産省・気候変動対策
- 研究期間
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2012年度(2010~2014年度)
- 研究担当者
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小林 慎太郎 ( 社会科学領域 )
古家 淳 ( 社会科学領域 )
見える化ID: 001740山本 由紀代 ( 社会科学領域 )
- ほか
- 発表論文等
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小林・古家・山本ら (2013),システム農学29(1):11-22
- 日本語PDF
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2012_02_A4_ja.pdf32.96 KB
- English PDF
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2012_02_A4_en.pdf92.28 KB