インドネシアのオイルパーム開発プログラムが小規模農家に与えた影響
インドネシアにおけるオイルパーム開発プログラムであるNESシステムは、施肥の改善と優良種苗の提供を通じて、小規模農家のオイルパーム果房収量を改善できる。
背景・ねらい
インドネシア政府は、1977年から、Nuclear Estate Smallholders(以下「NES」)システムと呼ばれるオイルパームプランテーション開発プログラムを実施している。本プログラムは、企業がプランテーション開発を行う際、開発された農地の一部を小規模農家(以下現地での呼称に従い「プラズマ農家」)に分配することにより、企業が地域社会と開発の利益を共有することを目的としている。プラズマ農家には、融資、技術指導、生産物の買い取り等の支援が企業によって行われる。
NESシステムの成否は事例による差が大きいが、比較の対象が無いため定量的な把握が困難である。一方、近年、NESシステムのような企業との協力プログラムに参加しないオイルパームの独立的な小規模農家(以下「独立農家」)が、スマトラ島を中心に増加している。このため、企業の支援を受けたプラズマ農家と、支援を受けていない独立農家の生産状況を農村調査結果に基づき比較することにより、同島のNES事例を対象にその効果を定量的に評価する。
成果の内容・特徴
- 一般に、オイルパームの樹齢は果房収量に強い影響を与え、果房の収穫が可能となる樹齢3年から収量は順次増加し、平均的には樹齢8~13年の間最大となった後、漸減する。スマトラ島リアウ州のパーム油企業A社が実施したNES事例では、樹齢20年以上のプラズマ農家で、さらに収量を増加・維持させているものがある(図A)。一方、同州の企業B社が実施したNES事例では、このような高樹齢のプラズマ農家の収量増加はみられない(図B)。また、A社事例では、プラズマ農家の純収益は独立農家を大きく上回る(図2)。
- A社事例について、農家の施肥量を比較すると、いずれの成分でもプラズマ農家の施肥量は独立農家を上回っている。特に、収量を高めるために重要なカリの施肥量は、独立農家では施肥基準を下回っている(図3)。施肥の適正化が、プラズマ農家の収量増加の一因である。
- オイルパームの生産性に強い影響を与える種苗について、その入手元を比較すると、プラズマ農家は全員が企業から品質の保証された改良品種の提供を受けている。一方、独立農家の大部分は農村の資材販売店等で販売されている種苗(品質保証なし)や、近隣のオイルパーム農家が自家生産した苗(実生苗であり品質が劣る)を入手している(図4)。企業が行った優良種苗提供も、プラズマ農家の収量増加の一因である。
- A社が継続的にプラズマ農家に技術指導を実施していること、農家と交わした融資返済条件や農地所有権に関する契約が守られたこと、A社は果房生産の多くをプラズマ農家に依存し小規模農家を支援する動機づけが高かったことも、プラズマ農家の収量増加に寄与している。
成果の活用面・留意点
- 小規模オイルパーム農家の収量改善の指針として行政機関が利用できる。
- 独立農家は農家間の資本や技術水準の格差が大きいことに留意する必要がある。
- プラズマ農家と独立農家の樹齢構成が異なることに留意する必要がある。
具体的データ
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図1 オイルパーム樹齢と果房収量の関係
(A:A社事例、B:B社事例) 標準収量は、Adlin(1990)に基づく標準的な樹齢と果房収量の関係を示す。A社事例では、樹齢20年以上のプラズマ農家で、さらに収量を増加・維持させているものがある(図中赤楕円部分)。 -
図2 農家の果房生産費と収益(A社事例)
プラズマ農家:26戸、独立農家:22戸の平均値。純収益、その他費用は1%、労働費、物材費は5%水準でプラズマ農家・独立農家間に有意な差がある。 -
図3 農家の施肥量(A社事例)
プラズマ農家:12戸、独立農家:8戸の平均値。エラーバーは標準誤差。 -
図4 農家のオイルパーム種苗の入手元(A社事例)
プラズマ農家:27戸、独立農家:25戸。
- Affiliation
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国際農研 研究戦略室
- 分類
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行政B
- プログラム名
- 予算区分
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科研費 » 基盤研究B
- 科研費
- 研究期間
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2013年度(2011~2013年度)
- 研究担当者
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杉野 智英 ( 研究戦略室 )
- ほか
- 発表論文等
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杉野ら(2013)2013年度日本農業経済学会論文集: 319-326
杉野ら(2014)2014年度日本農業経済学会論文集: 242-247
- 日本語PDF
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