ブランコヤドリバエの繁殖戦略 ~寄主密度と産卵調節~

要約

多くのヨトウガ類の天敵であるブランコヤドリバエについて、寄主遭遇頻度とパッチあたり寄主密度が産卵行動に及ぼす影響を調べた。寄主との遭遇頻度が高くなる(寄主遭遇までの時間々隔が短くなる)ほど1回の産卵数は少なくなり、逆にパッチあたりの寄主密度が高くなるほど1回の産卵回数は増加した。このことから、雌成虫は寄主頻度を認識して産卵数を調節していることが示唆された。このような能力が捕食寄生性ハエ類に存在することはこれまで知られていない。

背景・ねらい

ヤドリバエ類は天敵としての有用性を指摘されながら、同じ捕食寄生性天敵である寄生蜂に比べ研究が非常に遅れている。この原因のひとつに室内飼育の難しさがあげられている。そこで、室内累代飼育法を確立することができたブランコヤドリバエExorista japonica をとりあげ、繁殖行動について調べた。筆者はアワヨトウMythimna separata幼虫を寄主に、雌成虫にとって最大適応度を得るための寄主あたり最適産卵数が寄主密度に応じて1~10卵となることを理論的に明らかにしている(Nakamura, 1995)。そこでこの寄主を用い、実際に寄主遭遇頻度や寄主密度がどのように産卵に影響するかを、寄主を与える時間々隔および一度に与える寄生密度を変えて実験室内で調べた。

成果の内容・特徴

  1. 1分間隔で雌成虫に寄主を与えた場合、パッチあたりの寄主密度による差はなかったが2,24時間々隔ではパッチあたりの寄主密度が高くなるほど寄主あたり産卵数 は小さくなる傾向 を示した(図1(a))。
  2. 寄主との遭遇頻度が低くなる(寄主を与える時間々隔が長くなる)につれ1回の産卵数は多くなり、パッチあたりの寄主密度が高くなると1回の産卵数が増える傾向を示した。このことから、雌成虫は寄主密度を認識して産卵回数を調節していることが示唆された(図1(b))。
  3. パッチ内での滞在時間は、1分間隔で寄主に遭遇したときに比べ、2, 24時間々隔で遭遇した場合に延びる傾向を示した。しかし寄主との遭遇頻度(寄主を与える時 間々隔)が同じ場合、1分間隔では寄主密度の上昇とともに長くなったが、2, 24時間々隔では明らかな傾向は現れなかった(図1(c))。
  4. パッチあたりの寄主密度が1の時どの区でも100%の寄生率を示したが、複数の寄主を与えた場合、寄主遭遇頻度が減る(寄主を与える時間々隔が長くなる)と寄生 率はやや上がる傾向を示した。しかしパッチあたり寄主密度が上がると急激に寄生 率が低下し、未寄生寄主を残したままパッチを去る行動が多くみられた(図1(d))。

成果の活用面・留意点

本研究で得られた産卵行動に関する知見は、本種を生物敵防除手段として利用する場合、また他の捕食寄生性昆虫の繁殖に関わる行動特性を解析するうえで有用な基礎的知見である。

具体的データ

  1. 図1
    図1 1, 2, 5頭の寄主をそれぞれ前回の産卵から1分, 2時間, 24時間間隔で1頭のE. japonica雌成虫に与えたときの(a)平均産卵数/寄主(末寄生寄主を除いた場合)、(b)平均産卵数/回、(c)平均パッチ内滞在時間/回、(d)寄生率/回。同一時間間隔 (a-c)、同一寄主密度間(x-z)での同一アルファベット間には5%の危険率で有意差なし((a), (b), (c);Tukey-Kramer法、(d)検定)。
Affiliation

国際農研 生産利用部

分類

研究

予算区分
経常
研究課題

捕食寄生性ハエによる生物的防除に関する研究

研究期間

1995年(1991~1995年度)

研究担当者

中村 ( 生産利用部 )

ほか
発表論文等

日本昆虫学会第55回大会・第39回日本応用動物昆虫学会大会講演要旨集, 第39集, p.169.

日本語PDF

1995_09_A3_ja.pdf1.07 MB

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