実生のゲノム情報からフタバガキの幹直径と樹高を予測するモデルの開発
背景・ねらい
近年、ゲノム解析技術の急速な発展に伴い、野生種に近い木本植物においても比較的安価にゲノム情報の収集が可能となっている。一方で、個体サイズが大きく長寿命である木本植物においては、優良個体を交配した後、次世代のパフォーマンスを評価(次代検定)するために広大な土地と成長に係る時間が必要であり、優良個体の選抜を律速する要因である。そこで、ゲノム情報を活用し、着目する表現型を予測する手法に注目が集まっている。すなわち、交配から得られた実生のゲノム情報を活用して将来の表現型を予測できれば、これまでの律速要因を解決することが可能となる。そのためには、対象とする表現型とゲノム情報が既知の林分を用いて、ゲノム情報から表現型を予測するモデル(ゲノム選抜モデル)が必要である。本研究では東南アジア熱帯林において今後集約的林業で植栽が期待されるフタバガキ科樹種の一つであるShorea macrophyllaの成長に関するゲノム選抜モデルを作成する。
成果の内容・特徴
- 比較的環境変化の少ない検定林をゲノム選抜モデル作成のためのトレーニング集団として設定し、ゲノム情報の収集、目的とする表現型の計測、環境偏差による空間構造補正をおこなった上で、重要な遺伝マーカーの検出のためのゲノムワイド連関解析、その結果を用いたゲノム選抜モデル作成のワークフローを確立する(図1)。
- ゲノムワイド連関解析の結果をもとに連関度の高いマーカーを選抜し、線形モデル(6アルゴリズム)と非線形モデル(6アルゴリズム)の中から、最適なアルゴリズムを使用すると、使用に耐える予測精度が得られる(表1)。
- 植栽7年目の幹直径成長について線型モデルを用いた7手法と非線形モデルを用いた7手法でランダムに100モデルを作成した時の予測精度の中間値を算出する。直径成長は一次成長と二次成長の複合的な結果であるため、関連遺伝子数が多く、そのため、多くの遺伝マーカーと遺伝子間の相互作用を説明できる非線形モデルを用いた方が高い予測精度が得られる。(図2)。
- 樹高は一次成長の結果であるため、関連する遺伝子数が少ないと考えられる。GWASによって関連遺伝子数を絞り込んだ方が、予測精度の高いゲノム選抜モデルが得られる。(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本研究において開発したR言語及びPythonで記述したスクリプトを公開した。これにより多くの手法を用いたゲノム選抜モデルの作成への応用が期待できる。
- 本成果を基にすることで、次代検定を行うことなく、トレーニング集団から種子を採取し、ゲノム情報を元にその実生を選抜することで、成長に関する育種効果が期待できる。
- 本モデルは遺伝的組成が異なる集団には適応できない。したがってトレーニング集団か、遺伝的組成の近い集団からの実生を選抜に使用する必要がある。また、同一アルゴリズムでも予測精度にばらつきがあることから、アンサンブル学習を行うなど、予測精度に留意する必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 環境適応型林業
受託 » JST/JICA SATREPS
- 研究期間
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2021〜2023年度
- 研究担当者
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谷 尚樹 ( 林業領域 )
科研費研究者番号: 90343798Na'iem Mohammad ( ガジャマダ大学 )
Widiyatno ( ガジャマダ大学 )
Indrioko Sapto ( ガジャマダ大学 )
Sawitri ( ガジャマダ大学 )
阿久津 春人 ( 筑波大学 )
津村 義彦 ( 筑波大学 )
科研費研究者番号: 20353774 - ほか
- 発表論文等
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Akutsu et al. (2023) Frontiers in Plant Science, 14:1241908.https://doi.org/10.3389/fpls.2023.1241908
- 日本語PDF
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2023_A05_ja.pdf514.72 KB
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2023_A05_en.pdf265.49 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。