ダイズ紫斑病菌のゲノム情報

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要約
新たに取得したダイズ紫斑病菌のゲノム配列は、完成度が高く、ダイズ紫斑病菌の病原性関連遺伝子等の研究、分子生物学的情報に基づいた病害診断技術の開発などに利用できる。

背景・ねらい

紫斑病は世界各国のダイズ栽培地域で被害をもたらす重要な病害である。特にアルゼンチン等の南米地域において大きな問題となっている。紫斑病は、葉や葉柄、種子等に発生して減収を引き起こす。本病原菌の性状に合わせた的確な病害防除手段・診断技術を開発するためには、完成度の高い分子生物学的な基盤情報が必要である。そこで、ダイズ紫斑病菌の代表的菌株として選出したMAFF 305040株のゲノムを解析し、病原性に関与することが推定される遺伝子群を調査する。

 

成果の内容・特徴

  1. 新たに取得したダイズ紫斑病菌のゲノム配列は、9本の塩基配列で構成される(図1A)。ゲノム配列の総長は約34 Mb(メガベース = 100万塩基対)である(表1)。
  2. ゲノム配列から、13,001遺伝子が予測されている(表1)。予測遺伝子情報に基づき、ゲノム配列の完成度(BUSCO completeness)を調査すると、その数値は99.4%を示す(表1)。従って、ゲノム配列の完成度は高いと考えられる。
  3. 既知遺伝子の情報等を基に病原性に関与する遺伝子群の推定が可能である。実際に、宿主の抵抗性抑制等に関与するエフェクター遺伝子(図1B)、毒素等の生合成に関与する二次代謝遺伝子クラスター(図1C)および植物組織分解等に関与する糖質関連酵素群の遺伝子(図1D)が推定される。 

 

成果の活用面・留意点

  1. 取得したダイズ紫斑病菌のゲノム配列は、オンラインデータベースに登録してある(表1)。病原性に関与する遺伝子の探索や、薬剤耐性機構の調査等の際に、基盤的な情報として利用できる。
  2. ゲノム配列情報を利用して、ダイズ紫斑病菌を標的とした分子診断技術等を開発できる。
  3. ゲノム配列中の遺伝子は、他の生物の既知遺伝子等の情報に基づいて予測したもので、実際のコーディング領域、翻訳産物の機能等は、異なる場合も想定される。

 

具体的データ

  1. 図1 ダイズ紫斑病菌MAFF 305040株のゲノム配列の模式図
    MAFF 305040株のゲノム配列を構成する9本の塩基配列(A)を環状に並べた。目盛の最小値は0.1 Mb(メガベース)を表す。ゲノム配列から予測された遺伝子群のうち病原性への関与が推定される、エフェクター遺伝子(B)、二次代謝遺伝子クラスター(C)、糖質関連酵素遺伝子(D)の座乗位置を示した。

     

  2. 表1 ダイズ紫斑病菌MAFF 305040株のゲノム配列の概要

     

    図表はKashiwa and Suzuki (2021) より改変(転載・改変許諾済)

     

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

農産物安定生産

予算区分

交付金

研究期間

2017~2021年度

研究担当者

( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 60766400

鈴木 智大 ( 宇都宮大学 )

科研費研究者番号: 10649601

ほか
発表論文等

Kashiwa and Suzuki (2021) G3: Genes|Genomes|Genetics, 11 (10), jkab277. 
https://doi.org/10.1093/g3journal/jkab277

日本語PDF

2021_B04_ja.pdf299.42 KB

English PDF

2021_B04_en.pdf245.76 KB

ポスターPDF

2021_B04_poster.pdf221.18 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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