メキシコのダイズさび病菌の病原性は2つの傾向に大別される

国名
メキシコ
要約

メキシコの2州で2016年から2019年に採取されたダイズさび病菌は、全く異なる病原性の特徴を示す2つのグループに分けられる。病原性の明瞭な地理的差異の情報は、さび病抵抗性品種の導入による病害防除に利用できる。

背景・ねらい

ダイズさび病は熱帯・亜熱帯のダイズ栽培地域で最も重要なダイズ病害である。メキシコでは年々国内のダイズ生産が増加しており、それに伴いさび病が大きな問題となっている。抵抗性品種の導入による病害防除はコストや環境負荷の面で優れているが、対象となる病原菌の病原性に合わせて抵抗性遺伝子を選択する必要がある。しかしメキシコのさび病菌が持つ病原性とその防除に有効な抵抗性遺伝子は明らかになっていない。そこで、主要なダイズ生産地のさび病菌の病原性を解析して有効な抵抗性遺伝子を明らかにする。

 

成果の内容・特徴

  1. メキシコの主要なダイズ生産地のうち、タマウリパス州とチアパス州で2016年から2019年にかけて採取したダイズさび病菌、2015年にタマウリパス州及びサンルイスポトシ州から採取したダイズさび病菌は、クラスター分析により、異なる病原性の特徴を示す2つのグループ(グループ1、グループ2)に分けられる(図1A)。
  2. グループ1はタマウリパス州から採取したさび病菌からなり、抵抗性遺伝子Rpp1-bを持つダイズ品種が抵抗性となり防除に有効であるが、ダイズPI 200492のRpp1、PI 230970のRpp2およびPI 462312のRpp3に対してほとんどのさび病菌が病原性を示し、感受性反応が観察される(図1B、1C)。この特徴は南米諸国のさび病菌の多くが示す特徴と一致する。
  3. グループ2はチアパス州から採取したさび病菌、2015年にタマウリパス州から採取したほとんどのさび病菌とサンルイスポトシ州から採取したさび病菌からなり、4種の抵抗性遺伝子を持つ5つの判別品種に対してタマウリパス州のものと逆の反応パターン、すなわち、抵抗性遺伝子Rpp1-bを持つダイズ品種が感受性となるが、ダイズPI 200492のRpp1、PI 230970のRpp2およびPI 462312のRpp3に対し、多くのさび病菌で抵抗性反応が観察される(図1B、1C)。このグループの病原性の特徴は北米のさび病菌で多く報告されている特徴と一致する。
  4. 7つの抵抗性遺伝子のうち、ダイズPI 587880AのRpp1-b以外の全ての抵抗性遺伝子に病原性を示す強病原性のさび病菌MRP-16がメキシコには存在するが、そのさび病菌を含めた全てのさび病菌に対して3つの抵抗性遺伝子Rpp2Rpp4およびRpp5を持つ集積系統No6-12-1は抵抗性となり、防除に効果がある(図1B)。

 

成果の活用面・留意点

  1. メキシコのさび病に有効な集積系統は抵抗性程度も高いため、育種素材として有望である。
  2. 州間のさび病菌の病原性の大きな違いをもたらす気候や代替宿主等の要因を明らかにすることで、さび病菌に好適な期間のダイズ栽培禁止や代替宿主の除去等さび病防除に役立つ。
  3. さび病菌の病原性には年次変動があるため、長期間のモニタリングが必要である。

 

具体的データ

  1. Fig1

     

    図1 メキシコで採集されたダイズさび病菌サンプル(MRP)の病原性に基づくデンドログラム(A)と判別品種上での反応プロファイル(B)、採集した地域(C)
    タマウリパス州で2016-2019年に得られたサンプルを赤、2015年に得られたサンプルをピンク、サンルイスポトシ州で2015年に得られたサンプルを黄、チアパス州で2018年に得られたサンプルを青でそれぞれ示す。判別品種名後のカッコ内は保有するさび病抵抗性遺伝子(Rpp)をR、IM、Sは抵抗性型、中間型、感受性型をそれぞれ示す。


    図はGarcía-Rodríguez et al. (2021)より改変(転載・改変許諾済)


     

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

農産物安定生産

予算区分

交付金

研究期間

2017~2021年度

研究担当者

山中 直樹 ( 生物資源・利用領域 )

見える化ID: 001770

García-Rodríguez Julio César ( メキシコ国立農牧林研究所 )

ほか
発表論文等

García-Rodríguez et al. (2017) Mexican Journal of Phytopathology, 35(2):338–349
https://doi.org/10.18781/r.mex.fit.1701-5

García-Rodríguez JC et al. (2021) PhytoFrontiers, 2(1):52–57
https://doi.org/10.1094/PHYTOFR-06-21-0044-R

日本語PDF

2021_B05_ja.pdf393.72 KB

English PDF

2021_B05_en.pdf227.34 KB

ポスターPDF

2021_B05_poster.pdf302.77 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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