ベトナムに分布するイネいもち病菌およびイネ白葉枯病菌の病原性

国名
ベトナム
要約

ベトナムのメコンデルタを中心に、イネいもち病菌、及びイネ白葉枯病菌を収集し、病原性特性(レース)を明らかにすると共に,それらに対する低抗性遺伝子源の検索を行った。いもち病ではPish, Piz-t 及び Pik-p が、また、白葉枯病ではxa-5, Xa-7, Xa-17が、それぞれ低抗性遺伝子源として有効と考えられた。

背景・ねらい

   ベトナムのメコンデルタでは作物栽培・畜産・水産を複合した生産体系(ファーミングシステム)の発展が図られている。中でも、その基幹をなす米の安定生産技術の確立が強く求められているが、病害、特にいもち病と白葉枯病の発生は大きな生産阻害要因であり、その被害抑制は重要課題.となっている。本研究では抵抗性品種を活用した生態系調和型の防除技術を開発するために、メコンデルタを中心としたベトナム全土に分布する両病原菌の病原性特性を明らかにした。

成果の内容・特徴

  1. ベトナム全土から収集 した129株のいもち病菌を、日本の判別品種12品種と参照品種2品種の計14品種に接種して病原性を検定した結果、それらは12種の病原性グループ(レース)に分類された。最も優勢なレースはO02.4で、メコンデルタ11省中、10省でその分布が確認できた。
  2. 共通の抵抗性遺伝子Pishを持つ判別品種5品種、及びPishだけを持つ参照品種のAA/S2-3は全ての菌株に対して抵抗性を示した(表1)。Pishは日本の菌株には抵抗性を示さないことが知られており、供試した全てのベトナム産菌株に抵抗性を示したことは興味ある現象である。なお、上記の各判別品種が持つPish 以外の固有の遺伝子の作用については今後さらに検討しなければならない。
  3. 抵抗性遺伝子のPish 他、Piz-t及びPik-pも供試した全ての菌株に対して抵術性を示したため、これらの遺伝子は抵抗性遺伝子源として有効と考えられた。
  4. ベトナム全土から収集した白菜枯病罹病葉から単細胞分離法によって得た52菌株を、国際判別品種を含めた18品種に接種して病原性検定を行った。これらの菌株は判別品種に対する反応に基づいて、A~Fまでの6グループ(レース)に類別されたが、その中でもレースAが圧倒的に優勢で、80%以上の菌株がこれに属した。
  5. 抵抗性遺伝子xa-5, xa-7, xa-17を持つ判別品種は全ての供試菌株に対して抵抗性を示したので、これらの遺伝子は抵抗性遺伝源として有効と考えられた。

成果の活用面・留意点

   病原菌の病原性やレースの分布割合は、栽培品種の変遷などの要因によって変動することが知られており、抵抗性品種を効果的に活用するためには定期的な分布レースの調査が不可欠である。

具体的データ

  1. 表1 ベトナム産いもち病菌の日本の判別品種に対する病原性

    表1 ベトナム産いもち病菌の日本の判別品種に対する病原性
    1)S:感受性、-:抵抗性。2) AA/S2-3及びAA/S2-75は参照品種。
  2. 表2 ベトナム産白葉枯病菌の国際判別品種に対する病原性

    表2 ベトナム産白葉枯病菌の国際判別品種に対する病原性
    1) 仮称。2) S:感受性、-:抵抗性。
Affiliation

国際農研 生産利用部

クーロンデルタ稲研究所

分類

研究

予算区分
国際農業(メコンデルタ)
研究課題

メコンデルタにおける水稲主要病害の発生生態の解明

研究期間

平成7~10年度

研究担当者

野田 孝人 ( 生産利用部 )

DU Pham Van ( クーロンデルタ稲研究所 )

E Lai Van ( クーロンデルタ稲研究所 )

DINH Hoang Dinh ( クーロンデルタ稲研究所 )

ほか
発表論文等

T, Noda., N, T., Loc. and Pham, Van, Du. (1998) Rice pest management in the Mekong Delta. In "Development of farming systems in the Mekong Delta of Vietnam." H.M.C. Publishing House. Ho Chi Minh City, Vietnam, pp.272-287.

日本語PDF

1998_09_A3_ja.pdf453.77 KB

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