バングラデシュにおけるいもち病菌レースの分化とイネ遺伝資源の抵抗性変異
バングラデシュにおける、イネ遺伝資源のいもち病抵抗性変異は多様である。イネいもち病菌レースは栽培されているイネ品種の抵抗性遺伝子型に対応しており、天水田と灌漑水田では異なるレースが分化している。
背景・ねらい
バングラデシュでは、イネいもち病被害が近年報告されている。バングラデシュでは、イネは栽培シーズンにより異なる生態型のイネが栽培されており、雨期前期の陸畑栽培でのAus、雨期後期の天水田のAman、冬季(乾期)灌漑水田のBoroに区分される。特にBoroにおいて、いもち病の多大な被害が発生している。しかしイネいもち病菌レースの分化やイネ抵抗性変異に関する知見は少ない。本研究ではこれらの知見を集積し、将来の防除技術の開発や遺伝的改良に資する。
成果の内容・特徴
- バングラデシュ全土より採取した331のイネいもち病菌菌系は、23種の抵抗性遺伝子を個別に有する判別品種群の反応から、クラスターグループIとIIに分類できる(図1)。
- クラスターグループIはIIに比べ、判別品種グループの「i」に含まれる抵抗性遺伝子Pii、Pi3、Pi5(t)と、グループ「k」のPik-m、Pi1、Pik-h、Pik、Pik-p、Pi7(t)に対してより高い病原性を示す(図1)。
- 天水田では主にクラスターグループIの菌系が、灌漑水田ではIIの菌系が主に分布し、イネ栽培形態に従ってレースが変化する(図2)。つまり、バングラデシュでは同じ地域でも栽培シーズンが変われば異なるレースが優占し、地理的分布とイネ栽培生態が対応する他の地域(日本、カンボジア、西アフリカ)とは異なる。
- 天水田用イネ品種BRRI dhan34とSadamotaから採取した菌系の多くは、グループ「i」と「k」の判別品種(Pik-sは除く)に対し病原性を示すが、灌漑水田のBRRI dhan28とBRRI dhan47からのものは非病原性である。
- 一方、バングラデシュ稲研究所において保存されている334のイネ遺伝資源は多様な抵抗性を示し、イネの栽培シーズンごと、品種グループことで複雑な変異を示すが、保有する抵抗性遺伝子を推定すると、BRRI dhan34とSadamotaなどは判別品種グループ「i」と「k」のいずれかの抵抗性遺伝子を有し、BRRI dhan 28とBRRI dhan47は持たない(表1)、
- つまり、バングラデシュにおけるいもち病菌レースは栽培シーズンごとで変化するが、それはシーズンごとに栽培されるイネ品種の抵抗性遺伝子型に対応している。
成果の活用面・留意点
- 本研究成果は防除技術や抵抗性育種素材の開発研究のための有用な基礎情報となる。
- バングラデシュでは、イネ品種の抵抗性遺伝子型といもち病菌レースとが対応することが明らかになったが、今後も感染いもち病菌レースとイネ品種を対応させた関係を詳細に解明していく必要がある
具体的データ
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判別品種名は省略し、遺伝子記号のみを表示。グループ間で顕著に異なる抵抗性遺伝子は点線で囲ってある(Khan et al. 2016,一部改変)。 -
( ):地域名
n:収集・評価いもち病菌菌系数
各地域間でクラスターグループIとIIの頻度に顕著な差異はないが、天水田と灌漑水田では異なる。 -
表1 バングラデシュのイネ品種の遺伝的背景に含まれる推定抵抗性遺伝子
栽培シーズン 品種名 遺伝的背景に含まれる推定抵抗性遺伝子 判別品種グループ 未同定 「U」 「i」 「k」 「z」 「ta」 Pia Pish Pib Pit Pii
Pi3
Pi5(t)Pik-s Pik-m
Pi1
Pik-h
Pik
Pik-p
Pi7(t)Pi9(t)
Piz
Piz-5
Piz-tPita-2, Pi12(t)
Pita
Pi19(t)
Pi20(t)Aman
(天水田)BRRI dhan34 ○ 1 1 1 Sadamota ○ ○ 1 1 1 1 1 Boro
(灌漑水田)BRRI dhan28 ○ ○ ○ ○ ○ 1 1 1 BRRI dhan47 ○ ○ ○ ○ 1 1 ○:保有抵抗性遺伝子、1:いずれかの抵抗性遺伝子を含むことを示す。
- Affiliation
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国際農研 熱帯・島嶼研究拠点
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 病害虫防除
- 研究期間
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2017年度(2016~2020年度)
- 研究担当者
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福田 善通 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
柳原 誠司 ( 生物資源・利用領域 )
見える化ID: 001780小原 実広 ( 生物資源・利用領域 )
Khan Md. A. I. ( バングラデシュ稲研究所 )
Monsur M. A. ( バングラデシュ稲研究所 )
Mia M. A.T. ( バングラデシュ稲研究所 )
Latif M. A. ( バングラデシュ稲研究所 )
Khalequzzaman M. ( バングラデシュ稲研究所 )
田中 顕子 ( 鳥取大学 )
林 長生 ( 農研機構 生物機能利用研究部門 )
科研費研究者番号: 90391557冨田 朝美 ( 筑波大学 )
- ほか
- 発表論文等
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Khan M et al. (2016) Plant Disease, 100: 2025-2033
Khan M et al. (2017) Breeding Science
- 日本語PDF
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- English PDF
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- ポスターPDF
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