アルゼンチンにおけるダイズ急性枯死症の病原

要約

アルゼンチンの大豆主要栽培地帯に発生したダイズ急性枯死症の罹病植物からFusarium菌を分離し、形態学的な観察をするとともに、温室内での接種試験による病徴の再現および病原菌の再分離の結果、病原はFusarium solani f. sp. glycinesと同定される。

背景・ねらい

アルゼンチンでは、大豆栽培の拡大に伴ってダイズ急性枯死症の発生が目立つようになり、大豆主要栽培地帯のうち、コルドバ州およびサンタフェ州で多発している。地域によっては発生面積率が80%を越える圃場もある(Vallone, 2001)。アルゼンチンにおけるダイズ急性枯死症の発生については、既にPloper(1992)およびIvancovich(1993)が報告しているが、病原学的検討がまだ不十分である。そこで、アルゼンチンにおける大豆主要栽培地帯の圃場より急性枯死症の罹病個体を採集し、病徴を観察するとともに、病原菌の分離、病徴の再現、病原菌の再分離というコッホの三原則に基づいて病原を同定する。

成果の内容・特徴

  1. 病徴および標徴:ダイズ急性枯死症は、初め葉に黄色の斑点を生じ、葉脈間が褐変して全体が葉焼け状態になって落葉する(図1)。側根および主根上部が赤褐色になり、細根が腐敗するために抜けやすくなる(図2)。主根上部の表面にはしばしば白~青色のFusariumの大型分生胞子塊が認められる。
  2. Fusarium菌の分離:病原菌は、各地(コルドバ州ラスロサス、ヘネラル・ロカ、ツクマン州サン・アグスチン)から採集した罹病植物の胚軸下部~主根上部の赤褐色部分から高い頻度で分離される。病原菌は、

1)PDA培地上で生育が極めて遅く、その生育速度は腐生性Fusarium solaniの1/2~1/3である。
2)小分生子は形成しないが、50μm以上の大分生子を形成するので、それより小さい腐生性F. solaniとは形態的に区別できる。

  1. 接種による病徴再現:菌株の病原性を調べるため、病原菌をソルガム粒に培養し、乾燥後粉砕して一定量接種し、約1ヶ月栽培した後、発病調査を行う。病徴は2週間目ころから黄斑を生じ(図3)、後に葉脈間が褐変する(図4)。葉および根の病徴は圃場のものと同様である。
  2. 病原菌の再分離:PDA培地に置床した罹病個体の主根上部、主根下部および側根部の組織片より病原菌が再分離され、培地上で確認できる(表1)。
  3. 以上のとおり、コッホの三原則を満たしており、アルゼンチンのダイズ急性枯死症の病原はFusarium solani f. sp. glycinesと同定できる。

成果の活用面・留意点

アルゼンチンにおけるダイズ急性枯死症の病原が明らかになったので、より精度の高い簡易検定法が確立され、大豆抵抗性品種育成が効率的に推進される。

具体的データ

  1.  

    図1
    図1 圃場におけるダイズ急性枯死症の葉の病徴
  2.  

    図2
    図2 ダイズ急性枯死症の根の病徴
  3.  

    図3
    図3 温室における初期病徴
  4.  

    図4
    図4 温室における葉の病徴
  5.  

    表1
Affiliation

国際農研 生物資源部

分類

研究

予算区分
国際プロ〔南米大豆〕
研究課題

アルゼンチンにおける大豆主要病害の発生生態の解明と防除法の開発

研究期間

2002年度(1999~2003年度)

研究担当者

本間 善久 ( 生物資源部 )

青木 孝之 ( 農業生物資源研究所 )

LATTANZI Alfredo R. ( アルゼンチン農牧公社 )

ほか
発表論文等

本間善久, 青木孝之, 堀田光生, R. Martin・J. M. Francioni, R. A. Lattanzi. アルゼンチンにおけるダイズ急性枯死症の病徴と病原菌.(投稿予定)

青木孝之, 本間善久, Lattanzi, A. R. (2002): アルゼンチンの急性枯死症のダイズより分離されたフザリウム属菌. 日植病報 (講要).

日本語PDF

2002_06_A3_ja.pdf1.03 MB

English PDF

2002_06_A4_en.pdf73.22 KB

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