Competitive PCR によるカンキツグリーニング病の病原体DNA の定量

要約

カンキツグリーニング病に感染した植物組織中の病原体に由来するDNA をCompetitive PCR(競合PCR)により定量することで、病原体の増殖量を推定できる。

背景・ねらい

   カンキツグリーニング病は、熱帯・亜熱帯のカンキツ産業のもっとも大きな生産阻害要因となっている。日本を含む各国のカンキツ栽培地帯で、本病の侵入と感染地域の拡大が問題となっている。
同病の診断は、病徴観察やPCR 法などで行われているが、これらの手法では病原体の定量はできない。病原体の定量は、その感染機構の解明や、カンキツ品種の抵抗性の評価、農薬施用などの有効性の判定に必要である。そこで、Competitive PCRによる病原体の定量法を開発する。

成果の内容・特徴

  1. 測定対象のDNA領域と同じプライマーで増幅するが少し短い競合DNA(測定対象DNAの増幅長:1,166bp、競合DNAの増幅長:1,000bp)を作成し、このDNAを一定濃度でPCR反応液に添加することで、互いのDNA増幅に競合反応が生じる(図1)。
  2. プラスミドにクローニングした測定対象のDNAと競合DNAを、260nmの吸光度から得られるDNA量から計算される分子数で等しくなるようにPCR反応液に添加すると、それぞれから増幅するDNAの分子数は等しくなる。そこで、競合反応の判定は、増幅したDNAの総量ではなく、分子数で比較する。
  3. PCRによる増幅前のDNA分子数比と、増幅後のDNA分子数比は、対数軸のグラフ上で直線になる。それぞれのDNAの増幅数が等しくなる競合DNA濃度に相当する濃度が測定対象のDNA濃度と推定される(図2、図3)。
  4. リアルタイムPCRによるDNAの定量では測定対象DNA溶液にPCR反応を阻害する物質が共存 ると定量性が損なわれるとされているが、Competitive PCRによるDNA濃度の測定には影響がみられい(図4)。
  5. 測定値は病原体ゲノムのコピー数(濃度)を示し、病原体の濃度を反映していると推定される。罹病カンキツ組織中の濃度を測定することにより、カンキツのグリーニング病抵抗性に関する品種間差を明らかにできる(表1)。

成果の活用面・留意点

  1. 直接の測定対象がDNAであるので、測定対象となるDNAの抽出効率に注意する必要がある。
  2. PCR法によるDNA検出と同程度の設備と技術が必要である。
  3. リアルタイムPCRによる定量法に比べて、使用機器が比較的安価に揃うこと、PCR反応を阻害する物質が測定対象のDNA抽出液に含まれる場合でも正確な測定が可能であることが利点である。しかし、より多くの実験操作が必要となり、測定により長時間かかるので、多数の検体を測定する場合にはリアルタイムPCRの利用を検討すべきである。
  4. 電気泳動像からDNA 量を測定する画像処理ソフトウェアが市販されているが、発展途上国の研究機関で同様の研究を実施しやすくするために、当研究室では画像処理ソフトウェアを開発して測定に用いている。

具体的データ

  1. 図1
  2. 図2
  3. 図3
  4. 図4
  5. 表1
Affiliation

国際農研 沖縄支所

分類

研究

予算区分
基盤研究
研究課題

カンキツグリーニング病の伝播機構の解析

研究期間

2003 年度(2002 ~ 2005 年度)

研究担当者

河辺 邦正 ( 沖縄支所 )

ほか
発表論文等

河辺・大貫 (2003): カンキツグリーニング病の病原体量をCompetitive PCR 法により測定する. 日本植物病理学会報, 69(3): 308

日本語PDF

2003_32_A3_ja.pdf2.71 MB

English PDF

2003_32_A4_en.pdf51.64 KB

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