カンキツグリーニング病を媒介するミカンキジラミの分布はゲッキツの分布と一致する

国名
日本
要約

カンキツグリーニング病を媒介するミカンキジラミは、ミカン科のゲッキツが分布する奄美大島以南の南西諸島において恒常的に発生しているので、カンキツグリーニング病が未発生のこれらの島々では、本病の侵入に対する警戒が必要である。

背景・ねらい

   カンキツグリーニング病は、篩部に局在する細菌様微生物によって引き起こされるアジア・アフリカの熱帯・亜熱帯地域におけるカンキツ類の重要病害で、罹病樹は矮化しやがて枯死する。わが国では1988年に西表島で確認されて以来、現在では沖縄県のほぼ全域で確認されている。本病は接木によって伝染するほか、ミカンキジラミ(Diaphorina citri)により媒介されることが知られている。ミカンキジラミは南西諸島においては従来、奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島、西表島から記録されていたが、我が国でカンキツグリーニング病の発生が確認された後には、詳しい分布調査が行われていない。また、ミカンキジラミに寄生する天敵の分布の調査も行われていない。
   ここではカンキツグリーニング病の分布拡大を予想したり防除対策を立てる上で重要と思われる媒介昆虫ミカンキジラミとミカンキジラミが最も好む寄主植物であるミカン科のゲッキツの分布の現状について明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. ミカンキジラミが最も好む寄主植物のミカン科のゲッキツは、奄美大島以南の南西諸島に分布し、生垣などに好んで利用されているが(図2)、トカラ列島以北の南西諸島(トカラ宝島、トカラ中之島、屋久島)からは発見されていない(図1)。
  2. ミカンキジラミ(図3)は、奄美大島以南の南西諸島に分布しているが、トカラ列島以北の南西諸島(トカラ宝島、トカラ中之島、屋久島)では寄主植物であるカンキツ類が栽培されているにもかかわらず発見されていない(図1)。
  3. ミカンキジラミの寄生性天敵であるミカンキジラミヒメコバチ(Tamarixia radiata)とミカンキジラミトビコバチ(Diaphorencyrtus sp.)は、奄美大島以南の南西諸島のほぼ全域に分布していることから(図1)、これらの地域では寄主であるミカンキジラミが恒常的に発生していると推察される。

成果の活用面・留意点

  1. 奄美大島以南の南西諸島では、ミカンキジラミが恒常的に発生していると考えられるため、カンキツグリーニング病の侵入に関して注意する必要がある。
  2. トカラ列島以北の地域においても、施設栽培のカンキツのように、新梢の発生頻度が高くなる条件では、ミカンキジラミが恒常的に発生する可能性があるので、同様に警戒する必要がある。
  3. ゲッキツの分布には、奄美大島以南の地域において、好んで垣根等に利用されるという文化的な背景があるが、少なくともカンキツ園の周辺ではミカンキジラミの発生源となるゲッキツを除去するのが望ましい。

具体的データ

  1.  

    図1
  2.  

    図2
  3.  

    図3
Affiliation

国際農研 沖縄支所

分類

研究

予算区分
経常 法人プロ〔病害虫〕 技会プロ〔侵入病害虫〕
研究課題

ミカンキジラミの防除技術の開発

研究期間

2001 年度(1998 ~ 2001 年度)

研究担当者

河野 勝行 ( 沖縄支所 )

中田 唯文 ( 沖縄支所 )

高橋 敬一 ( 沖縄支所 )

小西 和彦 ( 農業環境技術研究所 )

安田 耕司 ( 農業環境技術研究所 )

吉松 慎一 ( 農業環境技術研究所 )

ほか
発表論文等

河野勝行. (2001): わが国におけるカンキツグリーニング病 ―現状と防除に向けての問題点―. 農業および園芸, 76(8), 855-863.

Kohno, K., Takahashi, K., Nakata, T., and Konishi, K. (2002): Occurrence of the Asian citrus psylla and its parasitic natural enemies in the Ryukyu archipelago, Japan. Acta Horticulturae, No.575: 503-508.

日本語PDF

2001_24_A3_ja.pdf925.86 KB

English PDF

2001_21_A4_en.pdf132.41 KB

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