熱画像を利⽤した葉⾯気孔伝導度の新規指標
植物体の熱画像から得られる葉面温度を用いて気孔伝導度を推定する指標を開発した。数理モデルにもとづくこの新規指標は従来の指標よりも測定環境の影響を受けにくい。このため、変動環境下での作物の乾燥ストレス耐性や光合成活性の評価に幅広く活用できる。
背景・ねらい
気孔伝導度(気孔コンダクタンス;gs*)は気孔における水蒸気や二酸化炭素などの通りやすさを表す指標であり、作物の光合成能力や干ばつなどの環境ストレスへの耐性指標として分野を問わず幅広く使用される。その測定にはリーフポロメーターなどの専用機器が用いられるが、1回の測定に1〜2分を要するため、多個体の測定が必要な大規模集団の評価には不適である。数理モデルを用いた推定方法もあるが、多数の複雑なパラメータを設定する必要があるため、圃場での利用には不適である。一方、気孔が開いて蒸散が活発になると気化熱により葉面温度(葉温)が低下する現象に着目し、葉の熱画像から気孔伝導度を推定する簡易の指標(葉気温差)は、短時間に多くの個体を評価できるため、特にリモートセンシング分野で頻繁に利用される。しかし、この指標は気孔伝導度との関係が周囲の気温や湿度、日射などの気象条件に強く左右されるため、異なる日や時間に評価した値を直接比較することができない。そこで、熱画像を利用しつつも気象条件の影響を受けにくい新規の気孔伝導度指標を開発し、マメ科作物のササゲ(Vigna unguiculata)を対象に、その有効性を検証する。
* gsは気孔のコンダクタンス(抵抗の逆数)を表す記号。sはstomata(気孔)の頭文字。
成果の内容・特徴
- 新規指標(GsI: gs Index)は、専用機器による測定や数理モデルによる推定法と比較して、葉面の気孔伝導度を簡便・迅速に推定するために、既存の気孔伝導度を表す数理モデルを簡略化した数式に、熱画像から得られる葉温を用いて算出する葉面の蒸気圧、熱画像撮影時の気温と湿度から求める大気の蒸気圧と大気飽差(大気がさらに含むことができる水蒸気量)、および日射量からなる4つの変数を当てはめたものである(図1)。
- 葉温に加えて上記複数の気象要因を変数に含むため、熱画像を利用した従来の簡易指標(葉気温差)と比較して、異なる測定環境で取得したデータでも実測値とよく対応する(決定係数R2=0.92、図2)。そのため、GsIを直接比較することにより、長時間あるいは長期間にわたる気孔伝導度の経時的な変化を捉えることができる。
成果の活用面・留意点
- 圃場条件、室内条件を問わず幅広く作物の生産能力や不良環境への耐性評価に活用できる。
- 熱画像により非破壊かつ短時間で葉面の気孔伝導度が推定できるため、特に大規模な遺伝資源集団や交雑集団を評価する際にその有用性を発揮する。
- GsIはササゲ以外の作物にも使用することができるが、測定対象の葉の傾斜角度が大きく異なる場合は値を比較することができない。
- ある程度の蒸散が起きていることが前提であるため、極度の曇天や雨天など、蒸散がゼロに近いような状態の葉では使用できない。
具体的データ
国際農研生物資源・利用領域
研究
交付金›アフリカ食料
2019年度(2016~2020年度)
Iseki K and Olaleye O (2019) Plant Prod Sci, 23(1):136-147 https://doi.org/10.1080/1343943X.2019.1625273




