フタバガキ科樹木ポット苗の葉の特性から土壌乾燥への応答性を予測

関連プロジェクト
環境適応型林業
要約

東南アジアの重要な木材資源であるフタバガキ科樹木8種のポット苗において、土壌乾燥への応答性と葉の水利用特性には種間差が認められる。葉の特性は、種多様性が高いフタバガキ科樹種において、乾燥応答の簡便な指標になり、気候変動に適応的な有用樹種の探索に活用できる。

背景・ねらい

 東南アジアの湿潤熱帯地域は世界でも有数の林業生産を誇るが、気候変動にともなう乾燥化により、生産性が低下することが危惧されている。そのため、植林木の乾燥耐性の向上による気候変動適応策の実施が急務である。同地域において重要な木材資源であるフタバガキ科樹木には470以上の種が存在し、乾燥に適応な有用樹種が存在する可能性がある。しかし、個々の樹種の乾燥耐性やその指標となる特性が不明であり、樹種転換による気候変動適応を進める上で課題となっている。フタバガキ科樹木は、異なる樹種が数年に一度、一斉に開花・結実する繁殖特性を有し、種子のサイズは樹種間で大きく異なるため、同齢だがサイズが異なる状態でポット苗として育苗されるのが一般的である。したがってこの状況に合わせた、乾燥耐性の評価手法の確立が不可欠である。本研究では、多様な林業樹種における乾燥耐性の簡便な予測を目指し、分布する環境や形態特性が大きく異なるフタバガキ科樹木8種のポット苗について、かん水を停止する土壌乾燥実験により、樹種間の乾燥応答の違いを評価し、指標となる特性を検討する。

成果の内容・特徴

  1. 温湿度と光条件を一定に制御した人工気象室内で、かん水の停止により人工的に土壌を乾燥させる。同齢のポット苗において、乾燥下での生存に関わる特性(葉の光合成特性としおれ度合い)の変化を調べ(図1)、樹種ごとの乾燥に対する応答性を定量化する。土壌乾燥の指標として、現場でも簡便に測定が可能な土壌水ポテンシャル値を用いた。
  2. 樹種によらず、土壌乾燥の初期に気孔コンダクタンス*が低下し、次に電子伝達速度**が低下する。また、最大量子収率***の低下と葉のしおれはほぼ同じタイミングで起こる(表1)。
  3. 気孔コンダクタンス、電子伝達速度およびしおれ度合いの土壌乾燥に対する応答性には樹種間差がある(表1)。
  4. 個葉の乾燥ストレス回避特性は、電子伝達速度およびしおれ度合いの土壌乾燥への応答性と関係し(図2)、樹種ごとの乾燥耐性の指標となる。

*気孔コンダクタンス:気孔を通じた二酸化炭素の拡散のしやすさを表し、環境条件が一定なら光合成速度と正に関係する。
**電子伝達速度:光合成光化学系IIのクロロフィルにおける光化学反応の効率を表し、環境条件が一定なら光合成速度と正に関係する。
***最大量子収率:光合成光化学系IIのクロロフィルが吸収した光量子当たりの光化学反応の最大の効率を表し、値が低いほど光化学系IIが光阻害により失活していることを示す。

成果の活用面・留意点

  1. 多様な林業樹種を含むフタバガキ科樹木のポット苗において、葉の特性は土壌乾燥応答の簡便な指標になる。このことから葉の特性を調べることで、乾燥耐性が高い有用樹種を効率的に探索でき、人工林において樹種転換による気候変動適応策に活用できる。
  2. 温湿度と光条件を一定に制御した環境下での若いポット苗を対象に得られたものであり、これらの環境条件が時空間的に変動する植林地および成木での妥当性については検証が必要である。

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 環境適応型林業

研究期間

2021~2024年度

研究担当者

河合 清定 ( 林業領域 )

科研費研究者番号: 50846334

Ng Kevin Kit Siong ( マレーシア森林研究所 )

Lee Soon Leong ( マレーシア森林研究所 )

ほか
発表論文等

河合ら (2025) 半島マレーシアにおいて分布降水量が異なるフタバガキ科稚樹8種における土壌乾燥応答と形質の関係 関東森林研究. 76(1): 81–84.

日本語PDF

2024_A07_ja.pdf746.14 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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