フタバガキ科樹種Shorea leprosulaの成長特性の地域個体群間差
異なる産地の個体を共通の環境で栽培して特性を評価するコモンガーデン試験により、東南アジア地域の有力な林業樹種の一つであるShorea leprosulaの伸長成長とカイガラムシ耐性の地域個体群間差が検出できる。得られる知見は、S. leprosulaの植栽木としての優良個体を探索する際の手がかりとなる。
背景・ねらい
過度な森林伐採により、東南アジア諸国におけるフタバガキ科樹種が優占する熱帯林の劣化・減少が問題となっている。更に、気候変動の熱帯林への影響が顕在化してきており、より多様な遺伝資源の特性把握による、フタバガキ科樹種の持続可能な造林技術の確立が急務である。フタバガキ科樹種の一つであるShorea leprosulaは、マレーシア半島でも広範囲に分布し、実生の選択と樹木の改良に十分な遺伝的多様性を持ち、有力な林業樹種の1つと考えられる。その一方で、天然林において害虫被害をもたらすカイガラムシの気候変動による増加が懸念されており、詳細データの収集が重要となってきている。そこで本研究では、マレー半島の異なる森林保護区から得たS. leprosulaの苗を用いたコモンガーデン試験*において、遺伝的に異なる個体群間における成長特性の差異の検出と、単一樹種の植林において頻繁に問題となるカイガラムシ被害に対する抵抗性評価を行う。
*異なる産地の個体を共通の環境で栽培する試験。
成果の内容・特徴
- ゲノムワイド関連研究を通じて、フタバガキの複雑な量的形質の遺伝的基盤を解明するためのコモンガーデンがマレーシア森林研究所(FRIM)に設置された(図1A)。このコモンガーデンにおいて、マレー半島の異なる地域の森林保護区9地域個体群から得たフタバガキ科樹種Shorea leprosulaの苗(図1B)を乱塊法により40反復で育成する(図1C)。
- 樹高の相対成長率は、個体群P7において最も高く、ボンフェローニ調整済みの多重比較の結果、個体群P2、P4およびP9に対して有意な差があり(図2、p < 0.05)、個体群P1、P3、P5、P6およびP8に対して有意な差は認められない(p > 0.05)。
- カイガラムシ(Pedroniopsis sp.)の付着数が調べられた結果(図3A)、個体群P7において最も低く、ボンフェローニ調整済みの多重比較の結果、個体群P3およびP9に対して有意な差があり(p < 0.05)、個体群P1、P2、P4、P5、P6およびP8に対して有意な差は認められない(p > 0.05)。
- 9地域個体群から得たフタバガキ科樹種について、P7は他の8樹種とは異なる林業樹種としての優れた形質を持つことがわかり、このことは植栽木としての優良個体を探索する際の手がかりとなる。
成果の活用面・留意点
- 成果は、地域個体群間差を考慮した植栽計画の立案や植栽木としてのS. leprosulaの優良個体を探索する際の手がかりとなる。
- コモンガーデンはゲノムワイド関連研究のためのプラットフォームとしての活用が期待されるとともに、今後はS. leprosulaの個体レベルでの遺伝的な差異と表現型との対応関係を詳細に調べる必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
- 研究期間
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2021~2022年度
- 研究担当者
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諏訪 錬平 ( 林業領域 )
Ng Chin Hong ( マレーシア森林研究所 )
ORCID ID0000-0001-5860-5553Ng Kevin Kit Siong ( マレーシア森林研究所 )
Lee Soon Leong ( マレーシア森林研究所 )
Lee Chai Ting ( マレーシア森林研究所 )
Tnah Lee Hong ( マレーシア森林研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Ng et al. (2022) Growth performance and scale insect infestation of Shorea leprosula in a common garden experimental plot. Journal of Forestry Research 34: 781–792.https://doi.org/10.1007/s11676-022-01510-4
- 日本語PDF
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2022_A07_ja.pdf1.03 MB
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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。