フタバガキ科熱帯林業樹種Shorea leprosulaの茎の成長と新葉の関係
背景・ねらい
東南アジアの代表的な林業樹種を多く有するフタバガキ科では、数年に一度しか開花・結実が起こらないことから植林に適したサイズの苗木の安定供給に課題がある。また、フタバガキを含む熱帯樹木の木材生産に気候変動が与える影響を理解することは喫緊の課題となっている。これらの課題の解決には、苗木の成長や木材生産の基礎である茎の伸長成長の制御機構を理解することが不可欠であるが、その制御機構については不明な点が多い。そのため本研究では、フタバガキ科の重要な林業樹種の一つであるS. leprosulaの枝を材料に、茎の伸長がどのように起こるのかを、伸長する茎に付属する葉との関係とともに検討する。
成果の内容・特徴
- S. leprosulaの枝では、茎の伸長がほぼ起こらない時期と、急速に伸長する時期が存在する(図1)。フタバガキの茎の伸長が連続的あるいは断続的かは議論があるが、この結果はS. leprosulaの枝では茎は断続的に伸長することを示す。また、茎の成長がほとんど起きない時期には葉も成長しないのに対し、茎が急速に伸長する時期には葉も同調して成長する(図1)。
- また、枝の伸長時に葉と茎は単に同調して成長するだけでなく、成長する葉を切除するとその基部側の茎(節間)の伸長が有意に低下する(図2)。この結果は、新葉と茎の間に成長を制御する関係が存在することを示す。
- これまでの研究から、フタバガキの葉の成長を制御する要因の一つとして、僅かな温度の変化が重要であることが示されている(令和2年度国際農林水産業研究成果情報C07 「温度のわずかな変化がフタバガキ科林業樹種の葉の生産のタイミングを制御する」)。茎の伸長が新葉の制御を受けることから、茎の伸長時期もまた温度に影響を受けている可能性がある。
成果の活用面・留意点
- 茎の伸長は木材生産や苗木のサイズ調節の基盤であるため、茎の伸長時期と温度の関連は、フタバガキの木材生産に対する温暖化の影響評価や、気温の異なる苗畑を利用した適正サイズのフタバガキ苗木の安定供給などへと活用できる。
- これまでに葉が展開するタイミングを長期間にわたりカメラを利用し観測するための手法を開発している(令和2年度国際農林水産業研究成果情報C07 「温度のわずかな変化がフタバガキ科林業樹種の葉の生産のタイミングを制御する」)。葉と茎の成長が同調することから、展開する葉をこの手法で観察することで調査を半自動化し、茎の伸長時期を簡便に知ることができる。これにより、フタバガキの茎の伸長時期を制御する環境要因を特定する研究が加速される。
- 新葉の切除が茎の成長を抑制することから、新葉が傷害を受けると茎の成長にも影響が現れることが懸念される。気候変動により虫害や乾燥による新葉への傷害が増加した場合には、茎の伸長をはじめ、苗木の成長や木材生産にも負の影響が出る可能性があり、注意が必要である。
具体的データ
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図1 断続的に成長するS. leprosulaの枝での茎と葉の変化
S. leprosulaの枝を1週間ごとに観察した結果を示す。S. leprosulaの枝では、左側2つのように数週間にわたりほとんど茎の伸長が見られない時期と、右側2つのように急速に茎が伸長する時期が存在し、断続的な伸長を示す。茎と葉は同調して成長するため、急速に茎が伸長する時期にだけ、葉が成長し展開する。スケールバーは、1 cmを表す。 -
図2 茎の伸長に対する成長する新葉の効果
成長中のS. leprosulaの枝において、成長する新葉を実験的に切除した場合(右)、無処理の場合(左)と比べて、新葉の基部側の茎(節間:赤い鏃部分)の伸長が有意に小さくなった。Nは実験に用いた枝の数を示す。図はKobayashi et al. (2021)より改変(転載・改変許諾済)
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
- 研究期間
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2016~2021年度
- 研究担当者
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小林 正樹 ( 林業領域 )
谷 尚樹 ( 林業領域 )
科研費研究者番号: 90343798Muhammad Norwati ( マレーシア森林研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Kobayashi et al. (2021) JARQ, 55(3):273–283
- 日本語PDF
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2021_A07_ja.pdf362.64 KB
- English PDF
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2021_A07_en.pdf324.3 KB
- ポスターPDF
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2021_A07_poster.pdf276.25 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。