健全な種子生産を維持するためのフタバガキ科林業樹種の択伐基準の改善

要約

フタバガキ科4林業樹種について、種子の父性解析から得られた花粉散布・開花量のパラメータを用い、択伐後の他家受粉の減少量をシミュレーションにより推定した。その結果によれば、材密度が高い非早生樹種では他家受粉が大きく減少し健全な交配が維持できないため、択伐の伐採基準を現行よりも厳しくすることが望ましい。

背景・ねらい

熱帯雨林から得られる資源、生態系サービスを維持し、持続的な森林経営を実現するためには、伐採後の二次林においても残存木による健全な種子生産と森林更新を持続させる必要がある。熱帯雨林では、ある程度の大きさ以上の有用樹種を抜き切りする択伐と呼ばれる収穫法が採用されている。マレーシア半島地区では、立木の蓄積を回復させて30年周期で択伐を繰り返せるように、フタバガキ科林業樹種の最低伐採サイズは直径50cmと定められている。しかし、この基準で伐採された後の二次林においてフタバガキ科の様々な林業樹種がそれぞれ健全に種子生産を行えるかどうかは未知である。ところで、それらの樹種のうち非早生樹種では直径50cm以下の小径木は繁殖に参加しておらず(国際農林水産業研究成果情報19: 15)、飛翔力の強い昆虫に送粉を依存する樹種では花粉散布パターンが開花個体の減少に比較的影響を受けにくいことが明らかになっている(同21: C-09)。そこで、生態的特徴の異なるフタバガキ4樹種について択伐後の母樹に到達する他家花粉の割合をシミュレーションすることにより、他家受粉によって健全な種子生産が行える択伐の条件を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. 母樹に到達する他家花粉の択伐後の減少率を異なる択伐基準(最低伐採サイズ)毎に推定すると、早生樹種では現行択伐基準(直径50cm)で伐採しても約3割から8割の他殖花粉の散布が維持されるのに対し、非早生樹種では他殖花粉は2割以下に減少する(図1)。
  2. 樹種間に見られる材密度や繁殖開始齢、成長、寿命などの生態的特徴の違いが他家花粉による交配の成否に影響しているため、樹種を早生樹種・非早生樹種に分類し、分類群毎に択伐基準を定めることが望ましい。非早生樹種に対しては直径50cmより大きい木も残す厳しい択伐基準を定める必要がある(表1)。

成果の活用面・留意点

  1. 得られた知見はインドネシア等のフタバガキ科が優占する熱帯雨林を有する地域にも活用できる。また、フタバガキ科以外の樹種や同様に択伐が行われるアメリカやアフリカ大陸の熱帯雨林に対しても本手法を用いて樹種ごとにきめ細やかな択伐手法に改善することができる。
  2. シミュレーションでは伐採時に花粉散布パターンを伐採前と同じであると仮定しているが、実際には花粉散布パターンに変化が生じるので、シミュレーションの結果は目安と考える必要がある。

具体的データ

  1. 図1.フタバガキ科林業樹種(Shorea属)4樹種について択伐後の母樹に到達する他家花粉の割合を推定したシミュレーションの結果.

    図1.フタバガキ科林業樹種(Shorea属)4樹種について択伐後の母樹に到達する他家花粉の割合を推定したシミュレーションの結果.
    40cmから1cm毎に伐採基準をスライドさせ、伐採基準以上の成木から花粉供給がない場合の他殖花粉の減少率をシミュレーション

  2. 表1.樹種間に見られる生態的特徴の違いとそれに応じた択伐施業の改善策

    樹種
     
    特徴
     
    択伐施業と種子生産
    分類
    例
     
    材密度
    成長
    繁殖
    開始齢
    寿命
     
    現行の
    択伐基準
     
    改善策
    早生樹種
    S. leprosula
     
    低い
    早い
    早い
    短い
     
    健全な交配を維持できる
    →
    現行の択伐基準で良い
    S. parvifolia
     
     
    非早生樹種
    S. curtisii
     
    高い
    遅い
    遅い
    長い
     
    健全な交配が減少する
    →
    より厳しい択伐基準が必要
    S. maxwelliana
     
     
Affiliation

国際農研 林業領域

分類

技術

研究プロジェクト
プログラム名

高付加価値化

予算区分

交付金 » 持続的林業

研究期間

2016年度(2011~2015年度)

研究担当者

谷 尚樹 ( 林業領域 )

科研費研究者番号: 90343798

Lee Soon Leong ( マレーシア森林研究所 )

Lee Chai Ting ( マレーシア森林研究所 )

Ng Kevin Kit Siong ( マレーシア森林研究所 )

Muhammad Norwati ( マレーシア森林研究所 )

Kassim Abdul Rahman ( マレーシア森林研究所 )

Musa Samsudin ( マレーシア森林研究所 )

津村 義彦 ( 筑波大学 )

科研費研究者番号: 20353774

ほか
発表論文等

Tani N et al. (2016) Journal of Tropical Forest Science, 28: 369-381

Masuda S et al. (2013) PLOS ONE, 8: e82039

https://doi.org/10.1371/journal.pone.0082039

Tani N et al. (2012) JIRCAS working report, 76: 61-66

Ecology and Genetics of Hill Dipterocarp Forest : -to aim sustainable forest management-

Tani N et al. (2012) Journal of Ecology, 100: 405-415

https://doi.org/10.1111/j.1365-2745.2011.01929.x

Tani N et al. (2009) Annals of Botany, 104: 1421-1434

https://doi.org/10.1093/aob/mcp252

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A4 613.65 KB

A3 616.02 KB

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