国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

飛翔力の強い甲虫媒のフタバガキ科樹種が健全に種子生産できる択伐基準

要約

JIRCASが開発した繁殖モデルを適用し、現地でバラウと呼ばれ低地フタバガキ林に生息する飛翔力の強い甲虫媒の有用樹について、熱帯樹木の択伐基準を考慮する際に重要な自然交配が可能になる花粉散布パターンを決定した。飛翔力の弱いアザミウマ媒の有用樹レッドメランティよりも送粉効率が高く、択伐基準はレッドメランティよりも緩和できる。

背景・ねらい

生物多様性の宝庫である熱帯雨林では、択伐と呼ばれる一定以上の大きさの木を収穫する手法で天然林から木材が生産されている。しかし、この手法が持続可能であり、豊富な生物資源を維持しているかを検証された例は少ない。JIRCASでは健全な種子生産を維持するための花粉散布パターンの研究を丘陵林に分布するフタバガキ科の有用樹レッドメランティ(Shorea curtisiiS. leprosuraなどに対する産地別取引名)で行ってきた。研究例の多いレッドメランティの中でも、ムティカ節に属する樹種は微小な花を持ち、花粉は飛翔力の弱いアザミウマによって散布される。しかし、フタバガキ科樹種は花の形態が異なる分類群毎に様々な昆虫と共生関係にあり、その共生関係毎に健全な種子生産に必要とされる異なる管理基準を設定することが望ましい。そこで大型の花を持ち、主に甲虫類によって花粉が散布される有用樹バラウ(Shorea maxwelliana)の花粉散布パターンを繁殖モデル(国際農林水産業研究成果情報 第19号)で推定し、択伐の影響を評価した。バラウは蓄積量がレッドメランティの約2割と乏しいが、高価値材を産出し資源の枯渇が危惧される樹種の一つである。

成果の内容・特徴

  1. 飛翔力の強い甲虫に花粉散布を依存しているため、一斉開花規模で生じる開花密度の違いが花粉散布に及ぼす影響は小さい(図1)。
  2. 大規模開花年では種子生産に寄与する花粉親の数が多く、大規模開花年にはより遺伝的に多様な種子が生産されている(表1)。
  3. アザミウマ媒のレッドメランティよりも甲虫媒のバラウは択伐による花粉散布パターンへの影響が小さい。択伐基準としては、他殖花粉の半減率を用いた場合、レッドメランティでは胸高直径が80cm以上の立木のみを伐採できるが、バラウではこの値は60cm以上と推定される(図2)。

成果の活用面・留意点

  1. S. maxwellianaはマレー半島の他、ボルネオ島にも広く分布している。特にボルネオ島では蓄積量も多く、我が国をはじめ海外への輸出も多い。その点で本成果はマレーシアの他、インドネシアへの波及効果も期待できる。
  2. 花粉散布パターンは送粉昆虫と開花個体密度に依存する。ボルネオ島とマレー半島では同じ樹種で異なる送粉者が観察された事例がある。樹種の個体密度が大きく異なる事例もある。このような場合、択伐シミュレーションで推定した値と、実際の結果が異なる場合が生じる。

具体的データ

  1. 図1 開花密度の異なる2カ年で示されたバラウの花粉散布パターン
    図1 開花密度の異なる2カ年で示されたバラウの花粉散布パターン
    近距離の個体との活発な交配で近距離の花粉散布パターンは若干異なるが、開花個体密度が低い2002年と、開花密度の高い2005年の花粉散布パターンはあまり変わらない。
  2. 表1 サラノキ節樹種及びムティカ節樹種における有効な花粉親数の比較

    表1 サラノキ節樹種及びムティカ節樹種における有効な花粉親数の比較
    規模開花年の種子生産に寄与した花粉親数(Nep)は44個体であり、部分開花年の28個体より多く、大規模開花年では遺伝的に多様な種子が生産されている。
    バラウの一個体あたりの有効な花粉親数(Nep/N)はレッドメランティよりも大きく、甲虫の活発な花粉散布能力を示している。
  3. 一定直径以上を収穫対象に選定する択伐基準を変化させた場合の母樹に到達できる他殖花粉量の減少率
    図2 一定直径以上を収穫対象に選定する択伐基準を変化させた場合の母樹に到達できる他殖花粉量の減少率
    他殖花粉半減率(図中0.5)に相当する択伐基準は、飛翔力の弱いアザミウマ媒のレッドメランティでは直径約80cm、飛翔力の強い甲虫媒のバラウではそれよりも緩い約60cmということができる。
所属

国際農研林業領域

分類

研究B

国名
  • インドネシア
  • マレーシア
  • プログラム名

    農村活性化

    予算区分

    交付金持続的林業

    科研費基盤研究B

    科研費URL
    https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24405034/
    研究期間

    2013年度(2006~2015年度)

    研究担当者
  • 尚樹 (林業領域)
  • 津村 義彦 (森林総合研究所)
  • Muhammad Norwati (マレーシア森林研究所)
  • Lee Soon Leong (マレーシア森林研究所)
  • 発表論文等

    Masuda, S. et al. (2013) PLoS ONE 8(12): e82039 DOI: 10.1371/journal.pone.0082039

    Tani, N. et al. (2012) JIRCAS Working Report No.76: 61-66

    Ecology and Genetics of Hill Dipterocarp Forest : -to aim sustainable forest management-

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